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序章 カストールの哀しみの鐘
サン・ユンは遠くから微かに響いてきた鐘の音に気付いて眉を上げた。独特の鳴らしかた、どこか物悲しく聞こえる音…
カストール公爵が治めるこの地方で、鐘の音が響く――これが指す事柄は、一つしかない。――皇都アジェで、皇族の誰かがこの世を去ったということ。
サン・ユンはこの森からは遥か遠くにある皇都アジェの方角を見た。そして〈森ノ民〉特有の死者を悼む仕草―右の手のひらで右目を隠しながら、左の人指し指で閉じた左目のまぶたに軽く触れる―をした。
その間も、鐘の音は響き続ける。
この、〈哀しみの鐘〉が響いたこの日がリンダ――そしてアリオスにとっての運命の一日であったと言えるのかもしれない。
〈十三番目の騎士〉の後の時代の話です。主人公はリンダ。サン・ユンは…しばらく出ない予定です。