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提案と報酬と

間の空気が気まずいものになった。

皆、居心地悪そうな顔をしている。

いや1名、アルヴィスは、ここは禁忌領域ではないのかと、ホッとしながら思った。

だが、その淡い期待は瞬時に消え去った。


「あー、そういえば、5年前にも、君達の同胞達に、同じことを聞かれたのを思い出したよ」


思い出したと呟きながら、遠い記憶を辿るように目を細め、遠くの方を見つめ出すダン。

怪訝な顔で見つめるアルヴィスに、言い聞かせるようにダンは説明する。


「禁忌領域とは、君達側の名称だろう。その地に住むものが、同じ名称を使っているとは限らないとは、思わないのかね」

「あ」


確かに禁忌領域とは、自分達の世界で使用される名称だ。

その地に生きる人々が、そのような忌まわしい土地と言わんばかりの名称を使っているわけはないと考えた方が自然だ。

そのことに遅まきながら気付いたアルヴィスは顔を赤くしている。

カインは、アルヴィスは切れる男だけど、ちょっと抜けているんだよなあと思いながら、聞き返そうとしたが、その前に一応確認しておく。


「あー、今の質問は1カウント?」

「う~ん。まあ、特別に無かったことにしてあげよう」


サービスで先程の質問は無かったことになったことを確認し、改めて質問を始める。


「では、ここは何と呼ばれた大陸だ?」

「ここは、アストラル大陸と呼ばれている」


アストラル大陸。

その名を聞いたことがなかった。

それは即ち、既存の大陸ではないということになる。

最も、ダンが嘘を付いていたり、その地域独特の名称と言う可能性もゼロではないが。


「アストラル大陸か。聞いたことのない名称だな」

「ふむ。5年前にも同じ事を言われたな」


先達も、似たようなやり取りをしていたらしい。

カインは更に質問を続けた。


「ここは、アストラル大陸とやらのどの辺の位置なんだ」

「この質問には明確に答えることは出来ない」

「何故だ?」

「地図の製作や所持は制限されてる。そもそも大陸全体を測定し、地図を制作、所持している者などいるのかね?」


この答えは、理解出来た。

地図は、カイン達の世界でも制限されていた。

その理由は、安全保障上の問題が挙げられる。

それに、明言されてないが、禁忌領域の位置を知られる手がかりを残さないようにするためではないかと、カイン達は睨んでいる。

禁忌領域の位置は、少なくともカイン達には教えられていない。

上層部は知っているだろうが、カイン達の地位ではその機密には届かない。

このアストラル大陸でもそうであっても不自然さは無かった。


「ごく限定された地域の地図なら持っている者はいるが、私の手元にはない。この森に関しては、必要な事はこの頭の中に入っているがね」

「じゃあ分からないってことか?」

「あくまでも明確に答えることが出来ないだけだ。ここが大陸全体の中で、具体的にどのような形の場所にあり、周囲に何があり、どこへどのくらい向かえばいいのか等の正確な答えが出せない」

「なら、ぼんやりとした答えなら出せるってことか」

「うむ。それでいいのならば言おう。ここは、アストラル大陸の中でも、かなり端の方ではないかと思っている」

「その根拠は?」

「こことは反対側に進めばになるが、この大森林を抜けた先に、海が広がっている」


つまりは、進行方向が逆だったら海に出たということになる。


「じゃあ、大陸から脱出したいと思った場合はそこから行けばいいわけか。まあ、船と航海技術が必要になるが」

「いや、そうもいかない。何故なら、海を渡ろうとしても、何かが邪魔をして、その先へ行けないようなのだ」

「何だって!」

「私自身がこの目で確認したわけではない。そういう話と聞いている。こちらから海を渡航出来ず、あちら側からもこの大陸には来れない。不思議と生物が少なく、漁場としても期待できない。故に、港としても機能せず、美しき砂浜と青い海岸線とは裏腹に、死海と呼ばれている」


ダンの説明通りだとしたら、反対側を進んでも、色々な意味で徒労に終わっていたことになる。

そのことに思い至った一同は、渋面にした顔を見合わせている。


「ならば、この大陸の外に行くには、別の手段を模索しないといけないわけか」

「そうなる。君達がどこから来たのか知らないが、故郷は大陸の外にあるのかね」


好奇心に目を光らせてそう尋ねるダン。

そういえば、カイン達は迷ったとしか説明していなかったことを思い出した。

これまでの経緯を説明しようか迷ったが、何かの助言を貰えるかもしれないと考え、話すことにした。


学園の試験を受ける予定だったが、突然説明にも無かった場所に放り込まれたこと、もしかしたらこの地は自分達の世界では禁忌領域と呼ばれている場所の可能性があること、禁忌領域と仮定してこれまで動き、ここまでたどり着いたこと、アストラル大陸という名称には覚えがなく、禁忌領域の事を指しているとしたら、故郷に戻るには大陸の外に出る必要があることを説明した。


ダンとアリスは、終始興味深そうにカイン達の説明を聞いていた。

説明している間、一言も口を挟むことはなく、黙って耳を傾けていた。

カイン達は細かい部分は省き、大まかに説明するに留めたが、彼らには十分だったようだ。

どこか満足げにダンは尋ねる。


「ううむ。この大陸の外かもしれない場所の話か……。実に興味深い」


平常心を保とうとしていたが、その顔はにやけそうになっているのを必死に我慢しているのが丸分かりだった。

想像以上に興味を持っている姿に驚きを隠せないカイン達だった。


「なんだ?先輩達は教えてくれなかったのか?」

「うむ。実はそうなのだ。話もそこそこに、ここから移動をしてしまってね」


自分達のようにこの小屋に長居をすることをしなかったようだ。

自分達以上にこの親子を警戒したのかもしれない。

その用心深さは見習うべきかもしれないと、この親子の変な部分を思い出しながら考えたアルヴィスであった。


「実を言うとだね、この地が大陸と言うのも、一説に過ぎないのだ。全容を知る者がいないからね。ただ、島と言うには巨大だと思われているため、大陸と呼ばれている。君達の世界も世界地図と言えるものはないのではないかね」

「はい、その通りです」


ダンはエッダの返事に自分達同様、理解できると言った風に頷いていた。


「そして、禁忌領域と呼ばれる場所の正確な位置は、君達では分からないと」

「はい、私達では、その機密にアクセスできません」

「ううむ。今から言うのは私の仮説ではあるが、聞いておくれ。もしかしたら、このアストラル大陸と君達の世界は地続きかもしれない」

「確かにその可能性も……」


どこかの辺境区と禁忌領域が繋がっているのかもしれない。


「それ故に、海を渡る以外に、君達は故郷に帰れる手段があるかもしれん。それ故に、海を渡るに拘る必要は必ずしもないのだよ」

「……ええ、そうですね。その可能性があります」

「まあ、俺達も必ずしも今すぐ戻りたいとは思ってないけどな。……いや、1名除くか」


その言葉と共に、カイン達3人は一斉にアルヴィスを見た。

その様子に、アルヴィスはたじろいでいたが、それでも言うべきことは言った。


「……いや、僕も実を言うと、今すぐにとは、思って、いない」


アルヴィスは絞り出すように言った。

まだ迷っているのは明らかだったが、はっきりと言い切った。


「いずれ必ず帰る気だけど、僕が今、戻ってもお荷物になるだけな気がする。禁忌を犯した者として、父さん達も扱いに困るだろうし……」


アルヴィスがずっと危惧している事として、もし今故郷に帰れたとしても、自分に居場所はないのではないかということだった。

家族は受け入れてくれると思っているが、社会の目がある以上、大っぴらに外には出れない。

それどころか、自分の存在が、家のリスクになることを恐れていた。

色々聞きたいことがあるし、話し合いたいこともある。

しかし、頭が冷えた今となっては、リスクを恐れる気持ちの方が強くなっていた。


「だったらいっそ、この地を探索して、何か成果を上げてから帰りたい。もし、ここが禁忌領域ならば、この地の情報はきっと本音では、喉から手が出る程欲しいはずだ」

「ふむ。では、君達は今すぐに帰りたいと思っている者はいないという事か」

「あー。まあ、そういうことになるのか」


すると、ならばといわんばかりに、ダンは再度提案する。


「君達の話を聞いて、尚のこと、私の提案に賛同してほしいという気持ちが強くなった。どうだろう。質問次第では、君達にとって価値のある情報を教えられる。そして、もう一つ、条件を加えたいと思っている」


新たな条件と言う言葉を聞き、意外な思いを抱いたカイン達だが、その条件の内訳を聞いて、尚の事、驚いた。


「私は、君達に魔術を教えてあげたいと思う」

読んで下さり、ありがとうございました。

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