話し合い(一名除く)
女性陣が出て来た後は、男共の番となった。
いつもはカラスの行水なカインも、今回はじっくり浸かっていたかった。
これまでの疲れをこれで洗い流そうと言わんばかりに。
ちなみに、時間の節約と、湯加減の質を優先し、同性同士で一度に入った。
広さも、その位ならばあったのだ。
カイン達が出てくると、先に出ていた女性陣は、思い思いの格好でくつろいでいた。
レベッカは柔軟体操をして、エッダはリュックを枕に爆睡していた。
「おかえり~。どう?身体を休めた?」
レベッカが柔軟体操で身体を曲げながら尋ねてきた。
ポニーテールをせずに、髪を下ろしている普段と違った姿に、カインはドキッと思わずなりながらも、いつもと同じように切り返す。
「おお、ばっちりな」
「まあまあの湯加減だったぞ。見直した」
偉そうに感想を述べたアルヴィスに、カインはレベッカと一緒になってチョップをかました後、話し合いたい事を思い出し、ちょうどいい機会と考え、今話すことにした。
丁度、ここの家主とその娘は今ここにはいない。
家主は風呂に入る前に外でまだやることがあると言い、今は家の中にはいない。
その娘は今、お風呂に入っている。
そのため、今は自分達だけで話し合いたい事を行う絶好の機会だったのだ。
エッダはまだ爆睡中だったが、起こすのは忍びないと考え、とりあえず3人だけで話し合うことにする。
エッダには後で説明することにする。
「なあ、ちょっと話し合いたいことがあるんだけど、今いいか」
「奇遇ね。あたしもよ」
「僕もだ」
3人共言いたいことがあるが、それがどんなものか、話を始める前からだいたい見当が付いていた。
「お前達がどんな事を言い出すのか。僕には何となく分かるぞ」
「やっぱり奇遇ね。あたしもだわ」
「かいちょー。お前天才か?でも俺も分かるから、俺も天才ってことになるな」
「……では、言わせてもらうが、ここ、何か変じゃないか?」
アルヴィスの率直な感想にカインとレベッカはあっさり頷く
「ああ、同感だ」
「あたしも同じ」
「ただの変人ならばいいが、よからぬ事を企んでいたとしたら厄介だな。今、世話になってる身でこういうことを言ってるのは失礼な話だとは思うが」
「でも、おかしな所があったら疑うのは当然なことよ。別に恥じる事でもないわ」
世話になっている身で疑うのに引け目を感じているアルヴィスだが、レベッカにそう思う必要はないと言われ、少し自信を持つのだった。
「ダンさんって最初とその後の印象に差があって驚いたぞ俺は。何かスイッチが切り替わったみたいな感じで。アリスはアリスで、急に饒舌になってよく分からないことを言ってたし。そういう家系なのかなあ」
「ダンさんが魔術師というのは意外だったわ。その、全然そんな感じしなかったから」
「ああ、どこの国も、というか、魔術連盟に加盟しているといった方がいいか。そこに加盟している地域では、魔術師と分かる格好や証明票を携帯することが義務付けられている。具体的な証明方法は、各国の任意に任されているが。魔術師であるというのは、一種のステータスだからな。そうやって色分けする事で、管理しやすくする反面、色々な特権や恩恵を受けられる飴を用意している」
「でも、都市部ならともかく、地方、それも辺境に近づく程、その辺はユルくなっていくもんだぞ。ここぐらい辺鄙じゃあ、律儀に守るメリットはない」
管理する側としては、識別できるようにしておきたい。
魔術師は歩く兵器とも言われている。
しかし、差別的な処置は、魔術師の報復を受ける。
それに、公共の福祉や軍事力への貢献は大きい。
更には、怪異といった神秘的脅威に対抗するには、魔術師の協力が必須だ。
決してむげには出来ないのが、魔術師という存在だった。
そのため、識別は出来るようにするが、様々な特権や恩恵を保証する形で体裁を整えている。
しかし、地方へ行けば行く程、弛くなっていく事が多く、このような地では、守られないのが実情だ。
守った所で人の目がなく、特権や恩恵は機能しにくいのだ。
そのため、辺境の魔術師は、姿が一般人と変わらない場合が多く、また、様々な特権や恩恵を得られにくい生活を選ぶというのは、いわく付きの魔術師が多く、警戒されやすい由縁になっている。
「その通り。律儀に守る奴なんて、まずいないだろう。かといって、闇雲に危険視もまた、愚かな行為だが。ただ、ダンさんが、魔術師っぽくないというのは、そういう意味だけじゃなく、その、何というかな……」
「まあ、分かる。アルヴィスが言いたいのは、格好だけじゃなく、中身……というか、本質の部分だろ」
「ああ、上手くいえないが」
「あたしもよ。そして、たぶんエッダもね」
「今夜の食事会で色々分かるかもしれん。後、一応毒を警戒して、耐性を上げておこう」
今夜、食事会を開き、もてなしてくれることになっている。
皆、役に立つ情報を期待しているのだ。
この地で暮らす生き証人が語ってくれるのが、自分達の指針になるかもしれない。
読んで下さり、ありがとうございました。