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12/39

可能性

「だってそうも思いたくなるだろ。何気に凄いことをやってるんだぞ。まあ、そのからくりが分からんのだが」

「俺だって知りてーよ。自分の力の加減が利かねえのは困る」

「ほんと、どうなってるんだか」


思案しているレベッカ以外が口々に思う事を口にする。

その後、とりあえずの処置として、カインは魔術を使うことには極力気を付けてもらうことにし、異変を感じたら皆に報告して情報を共有すること、遠距離攻撃の際は、とりわけ仲間がいないことを従来以上の範囲で注意してもらうことで落ち着いた。


「カインちゃん、ちょっとでも違和感がある事に気付いたら、すぐに私に報告してね。約束だよ」

「分かったから。そう偉い剣幕で言うなって」


至近距離から、ちょっと年頃の乙女がするにはあんまりな表情で約束を念押ししてくるエッダに、カインは引きながら承諾する。


その後、襲って来た獣の処理について話し合った。

エッダは全てを持っていきたい所を泣く泣く我慢し(さすがにそんな余裕はないのは自覚してる)、研究用として、魔術を喰らっていた顎や歯のサンプルを回収。食料として、一匹を解体して肉を調達し、内臓等もサンプルとして回収した。


その後、移動を開始することになったが、その頃には太陽が真上に来ており、昼の時間になっていた。

そのため、簡単な昼食を用意し(カインはその際、当番制を提案し、皆了承した)、ささやかな平穏な一時を送り、その後、出発した。


とりあえず小川に沿って移動することにした。

方位磁石で北に移動していることは分かったが、それ以上の情報は未だになく、確固とした目的地がない、航海図の無い船出と言える。

それでも皆、どこか楽し気であった。

こういうフィールドワークを好むエッダは当然楽しがっていたが、それ以外もそうなのは、解放感をどこか感じているからかもしれない。


カインは学園生活に退屈なものを感じていたため、現状の未知に挑むといえる状況を面白がっていた。エッダに負けず劣らずバイタリティがある男だった。

レベッカとアルヴィスは、図らずも家のしがらみから解放されている状態に浸っているといえる。

普段は何でもないように振舞う二人だが、内心鬱積したものはあった。

浮かれていられるのは今だけかもしれないと分かっていながらも、今のこの時間を大事にしたかったのだ。


途中、やはり見知らぬ生物に遭遇し、半分は先程の獣同様に襲い掛かられては返り討ちにし、もう半分は逃げだしたため、事なきを得た。

やっかいさは、あの魔術喰らいの獣がずば抜けていて、それ以外に遭遇した相手はそれほどでもなかったのは幸いだった。

尚、エッダは返り討ちにした獣のサンプルをとにかく欲しがったが、所持するには限度があるため、全てを回収できず、また、逃げていった獣を追いかけたがったが、他の皆に止められたため、がっかりすることが多かった。


そうしている内に、夜も迫ってきたため、敵に襲われにくそうな場所を探し、そこで今日も野宿することにした。

夕飯は仕留めた獣の肉を食べる事にし(ちゃんと毒がないか可能な限り検査した)、アルヴィスが調理当番として腕を振るっている間、各々は思い思いの時間を過ごすこととした。


カインは体をほぐす運動を行い、レベッカはエッダの手伝い、そのエッダは周囲に警報の結界と、物理的な簡易の警報の仕掛け、そして、守護の結界という三段構えの用心を敷き、それが終わったら、レベッカが用意をしてくれていた研究道具一式を使って、これまで集めたサンプルの記録をつけ始める。


そうしてる内に、アルヴィスが食事の支度が思った知らせを届けたので、皆は彼の元に集合した。

料理と言っても採れた肉を塩、胡椒で味付けして串焼きにしたシンプルなもの。

この地で取れた肉を初めて食べたが、思いの外ジューシーで肉汁溢れる逸品だったため、皆ついついおかわりしてしまっていた。


「くはあ。何だよこの肉はマジでうますぎる」

「本当ね。こんなおいしいお肉は初めてかも」


ホクホク顔で肉を食した感想を述べるカインとレベッカ。

顔がとろけ顔になっている。


「ふん。モグ……。まあまあだな。モグモグ……」

「こんなお肉を食べられるだけで来てよかったと思うよ~」


アルヴィスは澄ました顔をしながらも、肉を齧る口を一向に緩める様子はなく、エッダは感無量といった面持ちでほおばっていた。


お腹が満たされると、ついつい気が緩んでしまい、今まで不安を煽るだけかもと躊躇っていた話題を口に出す者が現れた。


「ここって今まであたし達が知らない場所なのは確かだけど、まだ禁忌領域と断言するには、アレが足りないわね」


そう切り出したのは、レベッカだった。


「アレってなんだ?」


怪訝な様子で問い返すアルヴィスとは裏腹に、カインはレベッカに同意する。

そんな様子をエッダはニコニコ見守っている。


「ああ。アレがまだねえな」

「だからアレってなんだよ」


そう焦れた様子で再度聞き返すアルヴィスに向かって、カインとレベッカは顔を見合わせニヤっと笑うと、せーのっとハモりながら答えを告げる。


「「脅威が足りない!!」」


そう言われたアルヴィスは、思わず聞き返す。


「脅威だと?」

「そうよ。ここが本当に禁忌領域ならば、人類が足を踏み入れるのを断念したと言われる程の破滅的何かが起こらないと変じゃない。この調子が続くようなら、とっくに人類の文明圏よ」

「ああ、その通り。別にそんな危険が起こってくれと言っているわけではないんだ。それどころか、もしそれが起こったら俺達は生きちゃいられそうにないから、このまま起こらないでほしい。だがそれはそれとして、このぐらいなら、立ち入り禁止にするような場所じゃねえな」


そう軽口を叩き合うレベッカとカインに対して、仏頂面で咎めるアルヴィス。


「お前達……。そんなフラグを立てるようなことを言うなんて……。そんなこと言ってたら、今に本当にそんなことが起きるかもしれんぞ」


そのアルヴィスの言葉を引き取ったのが、それまで口を挟むことはなく、会話を見守っていたエッダだった。


「もし、ここがあの禁忌領域ならば、いずれ必ず起こるっしょ。それが起こるまで、しばらく平和というのも文献から伺えるし」

「ああ……。そういえばそうだったわね。あの有名な街の放棄事件なんて、街が成立するまでは、大丈夫だったわけだし」

「うん。文献を読む限り、最後は皆不幸になるという共通点以外は、取り立てて共通点はないんよ。怪異の内容も、その起こるタイミングもまちまち過ぎて」


この中では一番禁忌領域に詳しいエッダは、自分の知っていることを話し出す。


「遅くて何年も後になってだけど、早いと着いて早々に襲われたっていうケースもあるぐらいなんよ。いや~、研究者泣かせで困ったもんさね」

「最後は必ず不幸に、か……」


カインは真剣さを見せながら呟く。


「……禁忌領域は予測不可能性の極致だといわれているそうだ」


アルヴィスは、ポツリと零す。


「予測不可能性……」

「ああ。つまりは、平穏も、ある日突然終焉を迎えるかもしれないし、逆に相次ぐ逆境に押し潰れそうになったかと思えば、突如事態は良い方向に行ったりと、何が起こるか掴めない場所なんだと」

「こうやっていられるのも今だけかも知れないってわけか……。何が起こるか分からなくても、せめて最後は笑って死んでいきたいわね」


レベッカが寂し気に言うのを見て、一同は場が肉を食べている時とは裏腹に、すっかり暗くなってしまったことに気が付いたため、話を変えなければと思った。


「しっかし、このまま進めばいつか森林地帯を抜けられるんだろうけど、今度は何もない荒野だったら嫌だな」


空気を換えるため、やや大げさに違う話題をするカイン。

それにアルヴィスが合わせるべく応じる。


「そ、そうだな。そうなってくると、補給もままならなくなる。欲を言えば、誰がこの地の案内人がいればいいんだけど」

「私達のお仲間がいればね。でも、それは難しそうね」


レベッカの言葉にエッダは別の見解を示した。


「レベちゃん。もしかしたらもしかすると、そうとは限らないかもよ?」


そのエッダの言葉にカインとレベッカは意外そうな顔をする。

アルヴィスだけは、同意を示すように軽く頷く。


「こんな措置をやられたのが、私達だけとは限らないはずだよ。私達の先輩もここに放り込まれて、まだいきているかもしれない」

「そうなったら心強いな」

「それに、これは私の自説なんだけど、本当に人類は、禁忌領域に挑むのを止めていたのかな?」


ポツリと呟くエッダに、思わず問い返すカイン。


「何だって?」

「人類は、本当に禁忌領域に挑むのを諦めてしまっていたのか。私はそれに疑問を持つの。それと、もう一点あるんよ」


エッダはもう一つの可能性を口にする。


「禁忌領域に入植した人達は、死ぬか、人類の文明圏に帰還したかのどちらかしか、選択肢はなかったのかな。もしかすると、死なず、撤退もせずに、この地に根を張り、その子孫達がこの地のどこかで生活しているかもしれないっさ。」


エッダはそう言うと、望みを託すように告げる。


「そう言った人達がもしいたならば、交渉次第で案内人になってくれたり、情報源になってくれるかもしれないじゃんか」

読んで下さり、ありがとうございました。

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