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読んで下さり、ありがとうございました。

「犬っころ共に舐められてたまっかよ」


カインはそう叫びつつ、すでに引き抜いていた、携帯している魔術触媒にもなりうるナイフを構える。


既に結界が破られる前に、自身に身体の強化魔術をかけ終わっていた。

(さて、どう戦うか)


相手は未知の獣であり、複数いる。

いくら体術を磨き、ナイフを構えようが、相手は大型獣の身体能力だ。

魔術の補助なくして、対抗するのは難しい。

しかし、魔術を喰らう特性が、対応を迷わせる。


(あの能力は、どんな魔術も食いつくすことが出来るのか?発動条件は、噛みつくだけ?限界はある?あるならどこまで?)


目まぐるしく思考を展開しながら、自分に向かって来た一頭に意識を向けるも、その後ろから次々に殺到してくるのを把握する。


(このまま向かえ討つ形で格闘になりゃあ、勢いに押し潰される。かといって、回避すりゃあ後ろの奴らがどうなるかは分からねえ。なら、前に出てやらあ)


カインはどうするか判断すると、素早く大地を蹴り、一気に間合いを詰める。

そして、相手の突進を直前で回避しつつ、すれ違いざまに、ナイフで獣の首元をかっ斬る。


すると、ナイフは的確に急所を捕らえ、速やかに獣へ死を与える。

カインはその勢いのまま、向かってくる獣達に、刃を走らせる。


最初こそ、急所を狙った闘いだったが、乱戦になれば、仕留めることが出来たら御の字程度で、それよりも、相手の身体機能を弱らせることに主眼を置いた戦い方にしていった。


(後ろにはあいつらがいるんだ。止めは任せた)


身体強化の術で、力もスピードもタフネスも上昇しているため、獣のスピードに遅れを取ることはない。

ナイフで切り裂けば、難なく筋繊維や血管を絶ちきり、場合によっては相手を死に至らしめる。

また、心肺機能も強化されているため、息を切らして戦いのリズムを壊したりせず、高い集中力を維持出来ていた。


すると、獣の動きが突如、急に鈍くなった。

何事かとカインは思ったが。すぐに答えが分かった。

「敵には行動を阻害する系統の術をかけろ。あと、遠距離攻撃は、どの系統だろうと控えろ。獣の特性を考えると無駄になる可能性があるからな」

アルヴィスの声だった。


カインは戦いながら、皆の方を見れば、レベッカは自分とは別方向から襲い掛かってくる獣を蹴り飛ばし、アルヴィスは弱った獣に留めをさし、エッダが補助系の魔術である動きを緩慢にさせる「過負荷」を唱え、放っていた。


しばらく戦った末、最初の10匹が残り2匹ぐらいになったが、その時だった。

まだ距離はあったが、更に8体の同種と見られる獣が増援として出現し、慎重に迫ってくるのを、周囲を警戒していたエッダがいち早く発見した。


「3時の方向から同種と思われる獣8体確認!こっちに来るよ〜」

「げっ。増えたあ!」

レベッカが悲鳴を上げる。


「こいつら、仲間を呼ぶ習性でもあるのか」

「でも、仲間を招集する合図らしきものはなかったよ。それとも、私達が知らない手段があるのか、後詰めのグループか、たまたま集まってきた別グループか。ああん、魔術を喰らう特性といい、研究してみたいなあ」


呑気なことを言っているエッダにアルヴィスが小言を言っているのを聞きながら、どんどん増えてくることにならないだろうかと、カインは不安になってきた。

(こりゃ早い所ケリつけた方がいいな)


今はまだ、安定した戦いを続けられているが、強化をかけていても、疲労が溜まり始めているため、長期戦は避けたい所だった。

それに、強化の魔術の限界時間が迫っているため、長引くようならば、再度かけ直すことも選択肢に入れなければならない。

その場合、カインは呪文詠唱に集中する時間が必要となるため、一旦戦線を離脱しなければならない。

(一気に吹き飛ばせればいいのに……)


魔術を喰らう特性が、広範囲魔術攻撃の有効性に疑義を生じさせている。

が、ここでカインと同じ考えをした上で、別の結論を出す者が現れた。


「あーーっ、もう。面倒臭い。こうなったら一気に吹き飛ばしてやる!」

「ま、待て。こいつらの特性を知っているだろう。だったら……」


アルヴィスが止めに入るが、レベッカは聞かなかった。


「魔術を喰われたら、その時はその時よ。別の手を使えばいいわ!」

「リソースも考えろ。ここは、何が起こるか分からん!」

「このまま長引いても、リスクよ。だったら、試しにやってみましょう。こいつらが全ての魔術を飲み込めるとは限らない。色々やって情報を集めるの」

「口論してる時間はもうないよ。レベちゃんの言うことも一理あるし、とりあえず、今度はそれでやってみよう。今なら撃てる」


まとめて吹き飛ばすことを主張するレベッカに、エッダも加勢したことにより、今後のことを考えて術の節約を考え、否定的だったアルヴィスも、態度を改める。


「むう。……そうだな。エッダもそう言うならそうしよう。」

「あたしとエッダで態度が違う気がするけど、気のせいかしら?」

「気のせいだ!」


ジト目になって問うレベッカに、キッパリ否定した返事をするアルヴィス。


言い合いを聞きながら、残っていた二頭を引き付け、相手をしていたカインは、結論が出たと知るやいなや、弱らせていた二頭を一気に片付け、レベッカに合わせるべく、声をかける。


「よし、こうなったら、二重掛けだ。俺が風の刃で、レベッカは炎を。異なる魔術で仕掛けよう。まとめて吹き飛ばすには、今しかねえ。乱戦になったらもう出来ないからな」

「時間差をつけて、異なる角度から放ちましょう。そうすれば、片方の攻撃を喰ってる間、もう片方の攻撃で仕留められるかもしれない」

「よしきた。最初は俺からだ」

「いえ、あたしが先行するわ。最初の攻撃は、どうせ囮の役割になる。仕留めるとしたら、風の刃の方がいいでしょ。それなら亡骸を後で活用出来る。あたしの炎じゃ丸焦げになっちゃって、再利用出来そうにないしね」


戦闘終了後の処理も考慮に入れた提案だった。

カインも異論がないため、了承する。


「しくじるなよ」

「そっちこそ」


お互い距離を取り、異なる角度から狙いを定める。

そして、それぞれ呪文を唱え、後は最後の一節を唱えるのみとなった。

まず、レベッカが呪文を完成させ、発動させた。


「炎の渦よ!」

これは、普遍的な言葉。

長い年月をかけ、魔術師達が定めた模範解答。

一般人ならいざ知らず、魔術師ならば、唱えれば誰でも使えるよう、形作られた真理。

そのため、この魔術を知っている魔術師ならば、何が起こるか正確に理解出来るため、対策も出来る。

対策マニュアルさえあるぐらいだ。

カインはそれを常々つまらないと思っているが、有効性は認めている。

この獣達には、対策マニュアルはないが、魔術を無効化する特殊能力ならばある。


呪文の後に発動するため、一拍間が置かれる。

発動後は早くても、その一拍で、対抗する時間が出来る。

獣にとって、その間は魔術を喰らう準備を行うに足りるものだった。


予想通り、獣は発生し、向かってくる炎の渦を喰らいだす。

喰らう行為をやっているのは、主に群れの中でも前方部にいる数体だ。

喰らい損ねて火だるまになっている鈍臭い獣もいたが……。


((((あ、やっぱりそういう事もあるのな))))


獣達は、火だるまになった仲間に目もくれず一目散に突き進もうとする。

だが、次にカインの魔術が待っている

少なくともレベッカの炎を喰らっている前方部には防ぐ手段はないだろう。

カインは今、呪文の最後の一節を詠唱することで、発動させようとしている。

しかし、相変わらず思う事は、やはり「つまらない」という想いだった。


(この呪文じゃあ、どの道、一気に掃討は無理だ。結局、さっきのような乱戦か)

学生の身分じゃあ、ここまでの火力の魔術しか学習は認められていない。

それでもこの4人は、学生の中でも選りすぐりの優秀な魔術師達なのだった。

一度に複数を瞬時に死へ至らしめる殺傷力十分な魔術をここまでスピーディかつ正確に、躊躇なく放てるのは、学生では一握りだ。

だから、誇りに思ってもいいのだが、カインは不満だった。


決められた方法により、分かりきった結果しか出せない。

カインはそれよりも、その先を観てみたかった。

だから試しに時々こっそりと、自分独特のアレンジを加え、術を放つということをやっていた。

最も、何かの変化を期待したゲン担ぎ程度の些細なものに過ぎないが。

アレンジした文言自体は、特別な意味があるものではないし、その程度で新たな境地が開かれるわけはない。

それで新たな発見が出来るのであれば、とっくの昔に誰かが開拓している。


学園で教えられた魔術というものは、アレンジ等をして、正確な呪文を唱えなくても発動する様な甘いものではない。

魔術師ならば、正しく唱えれば妨害でもされない限り、必ず発動するように確立された技術の結晶。

その代わり、一字一句正確に発音しなければ、効果は一切表れない。

なのに、カインのアレンジした魔術は発動する。

カインの場合、その大前提は崩れ去っていたのだ。

だが、彼は自分自身の異能性に気付いてはいなかった。


学園にいた頃、実習中にこっそり行っていた独自のアレンジ。

効果は変わらないため、最初は誰にも気付かれなかった。

教師も習い始めた最初の生徒ならともかく、慣れている生徒の呪文はいちいちチェックしない。

だが、本人も気付かない内に、僅かに変化が生じ始めていた。

その萌芽は、徐々にこっそり成長し始めた。そしてついに、それに気付くものが現れる。そして、今の顛末に繋がるが、それは別の話。


今、魔力に満ちた環境化で、急激に成長を遂げた新木が姿を現そうとしていた。


「風の刃よ!」

カインから放たれた緑色の刃は、誰もが予想し得なかった事態を招いた。

迫っていた全ての獣は、細切れになって大地に散らばっていた。

隙だらけになっていた前方の獣達はもちろん、魔術喰らいを使える後方の獣達も纏めて切り刻まれていた。

迫りくる風の刃の一枚や二枚ならば喰らう事が出来ていたが、それ以上の刃は喰らいきれなかった。


「「「「…………え?」」」」


放った当人であるカインも含めて、あっけに取られていた。

全員目が点になり、口は開きっぱなしになっている。

鳥や虫の鳴き声、木々のざわめきならば聞こえてくるが、人為的な音は何一つ聞こえてこないぐらい皆固まっていた。


「俺、何かやっちゃった……?」


カインの呟きに答える者が現れるには、もう少し時間がかかりそうだ。


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