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こんなの喜ぶやつなんているわけないでしょ

「なあ、あんたたちは──冒険者であることを辞めなかったんだな」

「シュシュ?」


 この階層の罠に気づき憤ったシュシュだが、ゾンビである彼らにそんな言葉を投げかける。


「こいつら、きっとずっと今も俺たちを食べたくて仕方ないはずだぜ?」

「ひっ──」


 小さな悲鳴と5チョロ。


「それをさ、抑えて抑えて……俺たちを待っててくれたんだ。自分たちを襲ったものの正体を伝えるために、次へと繋げるために、よ」

「何で分かるの?」

「俺がもともと──な?」

「それは……説得力あるわね」


 元グールの言うことだ。だとしたらあの時もフィナたちはグールおじさんシュシュに肉として見られていたのかと思い6チョロ。


「まあ、グールとゾンビとじゃあ少し違うんだけどな。そんじゃ最後に……乾杯でもするか?」


 シュシュたちが語るその間もゾンビ店主は黙々と酒をどんどん足していて数も行き渡っている。


「全員──俺たちが殺してやるから。こんな美女、美少女に殺されるなんて最後にお前ら幸せもんだよ、な?」


 ゾンビたちは何も話さないが、その緩慢な動きで肯定の意志を示す。


「ここに一堂に集まってくれてるってんなら、そこのフィナの剣技と俺の風であっという間に粉微塵なんだが……グールならそれでいいんだけどゾンビはなあ。聖水か回復魔法と相場が決まってら」

「そんなのどっちもないわよ」


 リハスがこの場にいれば解決だが、今現在そのハゲは猫獣人の後始末に忙しい。


「ん? そういえばそれも聖水みたいなもんか」


 思い出したように、シュシュはフィナの腰を指差して言う。その腰の下には6チョロ分の液体が滲み出ているが──。


「ちょっ⁉︎ こんなものに聖水みたいな効果なんてありませんからっ⁉︎」


 一部のゾンビだけは欲しそうな動きをしているが、フィナとしては誰にも譲る気はない。


「……何言ってんだ。その腰の魔法の瓶にはモエ汁が入ってんだろうよ」


 それは薬草の成分を濃く抽出した回復魔法より回復特化の液体。リハス加入前に回復魔法を扱える仲間もいないからと、買いためた薬草をしこしこモエ汁へと変えて貯めておいたもの。


 モエの愛◯きらしいそれもいわば聖水という意味なのか、単に回復性能の高さを指してのことなのか。


 モエが名付けたそれを口にしながらシュシュはゾンビたちの盃に注いでいく。


「そうそう、こいつはトップシークレットなんだが──俺はついこの間までグールっていう魔物だったんだ。それが生まれ変わってみればこんな美少女よ」


 シュシュはおどけるようにそう口にしてみなの不安を和らげようとする。


「わたしも、とっておきの秘密だけどさ。わたしたち、神様と知り合いなんだよね。だからさ──向こうについて神様にあったらこのフィナの名前を出すといいわっ。きっとまた……ちゃんと、生まれ変わらせてくれるから……駄々こねたらフィナに言いつけるって言えば、叶えてくれるから。だからまた……こうしてみんなで飲みましょう」


 さっきまで下から液体を垂れ流していたエルフは、今度は目から流している。途切れ途切れの言葉の間に聞こえる嗚咽はゾンビになった彼らに届いているだろうか。


 別れの挨拶も長くなるほどにつらくなる。思い切りよくシュシュとフィナが高く掲げたグラスを飲み干したのを合図にゾンビたちも一気に飲み干した。


 ある者は感涙にむせび、またある者は心の中の誰かに「済まない」とでも言いたかったのか、口が動いたかのようにシュシュにはそう見えた。


 ゾンビたちにとっては毒をあおるような行為だったが、モエ汁の効果に不思議と苦しむ者はなく、身体の隅々へと行き渡り、その様子を見ていたシュシュとフィナの手を煩わせることなくその身を光の粒にして空へと昇り消えていった。




 大量のゾンビを、高レベルな元冒険者のゾンビを屠った経験値は相当なものだったらしく、2人は何度かのレベルアップの光に包まれたりもしたが、その顔に笑顔などは微塵もなく、代わりにこれまで見せたことのないような怒りを滲ませている。


「──わたし、絶対あいつをぶん殴ってやるわ」

「ああ、俺たちでやってやろうじゃないか」


 光の消えた空に、ふたりのエルフが固く誓った。


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