自己責任とはいえ寝覚めが悪いからな ※イラストあり
「おはやいお帰りで──」
29階層に戻ってきた2人をポータル屋が迎える。
“お帰りなさい”というものとは違う侮蔑を含んだようなニヤケ面にフィナは何なのかと思うがモエに袖を引かれてその場を立ち去った。
階層転移のポータルは冒険者ギルドの中にある。
廊下の両脇に6つ存在し行きと帰りで半々。
ポータル屋に行き先を告げれば転送はすぐだ。
そんな廊下を真っ直ぐ進めばギルドの総合カウンターにたどり着く。
昼を過ぎたばかりのこの時間は人もまばらだ。
日銭を稼ぐために魔物素材の買取を頼むにしてもまだ早くカウンターに向かう2人はその身に視線を感じながら広いホールを歩いていく。
「なんだか……ねえ、モエ。わたしたち見られているってことない?」
「もしかしてスカウトなのです? これは姿勢を正してアピールなのですよっ」
「なるほど、そういうことね」
背筋をピンと伸ばして堂々と歩く2人。そんな2人に掛けられる言葉などはなく、聞こえてくるのはヒソヒソと囁くようなものばかり。
「あ、あれ? なんか違うくない?」
「気のせいなのですよ。誰が声を掛けるかの駆け引きが行われているのですよ」
モエはポジティブだ。
小さな事に不安を覚えるフィナはそんなモエの後ろを離れずついていく。
「ああ、どうにか生きて帰ってはきたんだな」
フィナ主観でやっとたどり着いたカウンターで掛けられた冷めた言葉は、決してその身を案じてのものではない。
「──死体回収の予定はキャンセル、だな」
「ちょっと、どういうことっ⁉︎」
スキンヘッドのギルド職員はつまらなそうにして書いてあったメモ書きに大きくバツをし、フィナの文句にため息をつきながら返事する。
「“パーティを外された女が2人で25階層に行った”とそう聞かされた。知っているとは思うがどこの階層も基本的には5人組みでの探索が推奨されている」
スキンヘッドはひどく億劫な感じを隠しもしない。
「それは余りに人数が少ないと死ぬ確率が跳ね上がるからだ。ましてや戦力外とされた奴らが手を繋いで出たんだ。ポータル屋は止めはしないが報告はあげてくる。自殺志願者が出た、と」
ポータル屋は冒険者たちが階層転移するのを滞りなく行う仕事をしている。
非戦闘員である彼らは荒くれ者たちもいる冒険者に意見することで起こりうる危険を冒す必要のないように冒険者の希望通りに送るように通達されている。
そんな彼らだからこそのつく判断というものもある。
送った冒険者とその先の階層レベルが適正かどうか、生きて帰れるかなど。
「本来冒険者連中がどこで死のうが知ったことではないんだがな。“そう”と分かっているなら回収もする。死んだら瓶の中の持ち物も解放されて出てくるからな。本人がどんなものまで持っているかは知らせる義務もない。有用な物なら使い回しもするし捨てておくには危険な代物があったりもするからな」
「ちょ、それってまるで追い剥ぎじゃない。死体を弔うためとかじゃ──」
スキンヘッドの物言いに顔を青くするフィナ。
しかし優しい言葉など返ってはこない。
「死体なんぞ持って帰っても何にもならん。魔物が食うのに任せるに決まってるだろ。いや、回収屋の気まぐれで前に一回あったな。若い女の死体を気に入ったのか──持って帰って腐るまで添い寝していたとか。そう証言してたみたいだが本当に添い寝だけなんだかどうだか」
「そそそ、それは弔いじゃないわよ。死んでからそんな慰みものになるなんて嫌よわたしは」
「死んでるなら、何されても文句も言えんだろ」
言われた事に気分は良くない。
だが反論も出来ない。
「もし2人でしかやっていけねえなら、レベルの6割くらいの階層。お前たちなら18階層くらいからだろうか──その辺から順番に上がってこい。きちんと攻略履歴があって認められればその時はここの連中の視線も別のものに変わっているだろうよ」
そう、スキンヘッドも2人のことは噂にだって聞いているし周りのフィナたちを見る視線が好意的でないことも気づいている。
29階層にまできて捨てられた2人はここまで──実力に見合わないところまで人のお世話になり続けてやってきたのだと。
例外こそあれ上階層ほど魔物素材も高く売れ、その数も多い。
だからそれ目当てのそういう2人だと。
「そう……いうことなのね。分かったわ、ありがとう」
「ありがとうなのです」
フィナもモエも素直だ。
地雷ゲロコンビとは呼ばれたものの、見た目には可愛いく綺麗なふたりに笑顔でそんな事を言われればスキンヘッドも茹で蛸になろうというものだ。
「まあ、あれだ。生きてて良かったな。買い取る素材でもあるか? あるなら奥にいくといい」
フィナはスキンヘッドの手を両手で包み込むようにして改めてお礼を言い、モエもそれに倣い礼を告げる。
同じ行為の両者に差があるといえば、少なからず自分の見た目の良さに自覚のあるエルフのフィナにはこの階層のコミュニティでの印象を少しは良くしたいという打算ゆえのものであることと、そんなことに無頓着なモエの純粋さだろうか。
どちらにせよ茹で蛸スキンヘッドを味方に引き込むことだけは出来たようだ。
「おい、ちょっと待て」
「なんです、ツルパゲの旦那」
「トカゲ面に言われるのも癪だが、この際そんなのはどうでもいい」
「何を鼻息荒くしてるのでさ」
「これだよこれ。この俺自身がだなあ」
「いやー、いつ見てもいい光り具合で」
「そこじゃねえ。いや、そこもなんだが……」
「何が言いたいんで?」
「最近この作品にイラストをいくつも掲載しはじめたらしいんだが」
「時系列すら無視したメタ話でさね」
「モエとフィ、フィナと……ほら、あのあいつもだ」
「この段階で出てきてないキャラの名前を伏せるくらいはするんですねえ」
「ああっ、その通りだとも。俺はとっても配慮のできる奴なんだ。それがだ、その俺が、俺だけが──」
「はぃ?」
「俺だけがやけにリアルな感じに仕上がってるのはなんでなんだ!」
「確かに頼れる兄貴って感じがムンムンしてやすね」
「た、頼れそうか?」
「とっても」
「そ、そうか。それならまあ……頼られるだろうか」
「主要キャラしかイラストにしないみたいですぜ。その主要キャラも両手の指さえ必要無いくらいらしいですし」
「そうか、メインに入ってるんだな、俺は」
「まあ作者のやつ、可愛い女の子のイラストを作成させるのは楽しいけど、何が悲しくて筋肉ハゲを希望通りのイラストが出来るまでガチャるかって諦めた結果らしいっすけどね」
「かああっ、そういうことかあああっ」
「旦那、落ち着いてくだせぇ。ツバ飛んでまさ」