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抜き足忍び足なのです……にゃ。

 それまでの階層とは違い、スタート地点近くの安全地帯に設置されたコミュニティ兼ギルドは木造の集落ほどの規模でしかない。


 急ごしらえの柵に囲われたなかには、数えるほどの建物しかない。


 宿屋などという上等なものはなく、雨風凌ぐだけの大きな建物に雑魚寝するだけの宿泊施設。


 ポータルと直通のギルドの建物もほとんどが机と椅子ばかりの酒場でしかない。あるのは他にカウンターと少ない情報だけだ。


「最高到達階層が更新されたのが3日前とは……」


 65階層の階層主を撃破したときには「これで最前線だ」と喜んだシュシュたちだが、一足遅く攻略の一団は上の階層へと旅立ったらしい。


「気にすんなハゲ。あとたった一つならもう最前線だろハゲ」

「ハゲハゲ言うなチビ」


 いつも通りに見えるシュシュも少しだけガッカリしてリハスに当たっているが、最前線というのも間違いではない。


 まだ作りかけのコミュニティにいる人のほとんどが、ここまでの階層攻略で傷つき体の癒えるのを待つ攻略者たちだからだ。


「ここまで来れたのが74人らしいわ。もちろんわたしたちを除いて……そのうち12人が67階層の下見をしている段階だとか」


 少ない情報のひとつをフィナが仕入れてきたらしく、シュシュのミックスジュースとリハスの酒とともに手渡してくる。


「結構残っているもんなんだな」

「それだけあの49階層を越えられずに燻っていた連中が多かったということだ」

「それが今やギルド職員のハゲも最前線なんだからな」

「──そうだな」


 リハスとてその肉体をして僧侶適性などでなければ、シュシュたちと出会わずとも、そのメンバーのひとりとしてここで酒を飲んでいたのかもしれない。


 もしくは死んでいたか。


 口の悪いエルフ幼女に礼を言うべきか。そんなことを考えて、この幼女は礼など求めるはずもないと結論を出し、酒に口をつける。


「モエはどこに行ったんだ?」

「モエならたしか向こうに──」


 フィナが言うには、尻尾を立てて猫耳をせわしなく動かし、何かを見つけたかのように軽くジョギングしていったという。


「モエが、ジョギング?」

「そ。ジョギング」

「あの非戦闘職が健康のためにやるあれか?」

「そ。あの運動不足解消にするあれ」


 フィナもテーブルにつき、持ってきたミルクを飲む。そばではポークがオレンジジュースを手に、言うべきかどうかと迷いつつ、おずおずと口にする。


「あの……それってコミュニティの外に行ったんじゃ……」


 ポークの言葉を聞き終わるより早く、シュシュたちはそれぞれのコップを空にする。


「──あの牛と戦ってるとき、珍しく頭を使ったなあなんて思ったんだ」

「モエは奔放ではあるが、全くの馬鹿でもないということか」

「わたしも今思えばあれはいつもの独断専行を誤魔化そうとしていた気がするわ」


 63階層を越えてからろくに休まずに最前線へと追いつこうとしていた一行だ。今日くらいは情報収集と準備でゆっくり過ごそうと考えていたのだが。


 リハスがポークを脇に抱えて、ポークはリハスの脇の臭いに悶絶し、フィナがシュシュを背負えばシュシュが風の加護でふたりの脚をサポートする。


「──うちの猫ちゃんはもうっ」

「こうなったら魔物の群れにでも襲われていて欲しいものねっ」

「ええっ、それじゃあモエさんがっ」


 お代をテーブルに放り投げ走り出す。


「足止めしてくれてないと俺たちが追いつけんだろうっ」

「ああっ、なるほど──」


 リハスの説明に納得するポークだが、それが正しいのかは分からなかった。



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