この先も立ち止まりはしねえさ
「ユズさんっ」
「モエっ」
がしっと抱き合うふたりは再会を喜ぶわけではなく、逆に再度の別れを惜しんでいる。
「この先──か」
「ああ。今回は結局モエたちに助けられて上がってこれたようなもんだからな。俺たちはもう少し下で鍛えてから追いかけることにする」
オスメたちはモエたちがポークのレベリングに行っている間にリハスを交えて相談していた。
このままで続けるかどうかを。
実際に62階層の階層主を倒せたのは助けがあったからである。モエやフィナたちについて行けばもう少し更新することは出来るだろう。
だがそれを良しとしないのが彼らの結論であった。
追放したはずのモエに助けられたこともあるが、実力に見合わないと感じたなら、その時すでに手に余るほどの危険に足を踏み入れているのだ。
「また生きて会いましょうね」
「そうね。フィナさんの料理とモエさんのシャンプーをまたもう一度頼みたいもの」
フィナとララがさっぱりと挨拶してる間もモエとユズはわんわん泣いて、ゲルッフとザーパフにオスメのむさい連中も酒を酌み交わして別れを告げている。
「じゃあ次に会うのはきっと最前線だな」
シュシュたちに立ち止まる気などない。同行するのはやぶさかではないが、離れるとなればその差は開くしかない。
だから、シュシュの本音としては“次に会うのは俺たちが塔を攻略した凱旋パレードでだな”といったところだ。
そうしてシュシュたちが訪れた63階層も下と同じで大きな滝を終着点とし、滝壺を取り囲む崖の上、原生林を進むフィールドである。
「──下を覗いても62階層が見えるわけじゃないのね」
上の階層に来たら同じ様相だった、のであればと考えてそう試したフィナだが、62階層で天井などなかったのだからそんなミルフィーユ構造なわけもない。
「気をつけろよ、落ちたら最後──助かりはしないからな」
それほどに高低差のあるフィールドは珍しい。“神の塔”に生きる冒険者たちも無敵の肉体を持つわけではない。
「こんなところから落ちたら死んでしまうのですっ」
「……モエなら平気で帰ってきそうなのが怖いわ」
先の牛戦では上空で何度も跳ねて最終的には竜巻に巻き込まれつつも鉄球の重さを頼りに不時着を成し遂げた猫獣人はフィナ基準で既に同じ次元の存在ではない。
「お喋りもここまで、か。楽しい階層主戦だぞ」
敵を視認し、腕組みするシュシュはポークとともに見学スタイルだ。そばに立つエルフ幼女にポークは顔を赤くするがシュシュはそんなことにはお構いなしである。
「俺が行ってもいいってことか?」
「わたしがサポートするわ」
「モエもなのですっ」
トゲ付きメイスを振り回す僧侶のリハスを前衛ふたりが補佐する。
下の階層と同じ体格が大きく体色が違うだけの人狼を彼女らが攻略するのに苦はない。
(前の階層主みたいなおかしな挙動は何もない、か。用心しすぎだったか?)
離れて見るからこそ気付くものがあるとシュシュは観察に徹していたが、リハスはフィナたちの援護を受けながらも問題なく階層主を倒して次の階層へのポータルも確認できた。
「じゃあ次の階層へレッツゴーね」
「なのですっ」
一行はそうして有り余るチカラを発揮しながら、やがて66階層へとたどり着いた。