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こう、尖ったほうで──

「その……ごめん。叩いちゃって」

「フィナふぁんは悪ふないのでふよ。モエが悪ノリひひゃったふぁらなのでふ。モエほほぼめんなふぁいなのでふ」


 そう言うモエの顔は左の頬が驚くほどに腫れ上がっていて、その腫れ具合たるや割と危険な悪戯をされたフィナが我に返って謝るほどである。


「でもおかげでその鉄球の話を信じられそうよ」


 自在というのは重さを変えられるということなのだろう。


 それはかなり限定した力ではあるけれど使いようによってはとても強力なものである。


 素で150kgあるのだ。


 それを石ころを投げるノリで相手にぶつけられるのなら──そこまで考えてフィナはモエだけは敵に回すまいと心に決めた。


「とりあえずイノシシはモエの瓶に入れとこうか」


 この世界の人々は1人ひとつ、魔法の瓶と呼ばれるものを腰に提げている。


 ガラス製のような名前ではあるが決して割れることのないアーティファクトのひとつ。


 ただ全員が持っている点においてそれは馴染みすぎていて普段からアーティファクトだと認識しているものは少ない。


 再現不能の理解の及ばない、或いは高度な技術によって造られたとされるモノ。


 そんなアーティファクトがなぜ1人ひとつを手にしているのかといえば、その瓶自体が彼女らが産まれた時に同時に産出されるものだからだ。


 どこかの遺跡から発掘されたりするわけではない。


 瓶は赤子と共にそこに産まれる。


 そう分かっていてなお、誰もその産まれる瞬間の観察が出来ていないそれは、もうそういう神からのギフトとして受け入れられている。


 そしてその瓶が“魔法の”と呼ばれるのは、その中にモノを収納できてしまうからだ。


「モエのは何体くらい入るの?」

「モエの瓶はこのイノシシくらいなら5体くらいなのです」

「じゃあそこはわたしの勝ちね。たぶん7体はいけるわ」


 個人差のある瓶の容量は本人の中だけの感覚で表される。


 所有者と魔力的ななにかで繋がっているのでは、という推測のされる瓶はしかし使えるのは持ち主のみである。


「そう思うとモエの鉄球って魔法の瓶みたいだね。じゃあもしかして譲れるの?」


 そして瓶は所有権の譲渡が可能である。


 現在の所有者が明確に口にすることで他人に譲ることが出来る。


 そしてそれがなされる時というのは大抵金銭のやり取りが発生する。


「もしかしたらそうかも……」


 あの男はそういうふうなことを言っていたか。


 しかしはっきりとは覚えていないが、モエが“貰った”と認識している以上はそうなのだろう。


「けれどこれは誰にもあげないのです。これがなくなったらモエはまた……」

「──っ! ごめん、そんなつもりじゃないのよ」


 声のトーンを落として静かに告げるモエはどこか悲しげな雰囲気すら漂わせている。


 フィナは弓が下手で剣を持つことで辛うじて仲間として扱われていた。


 もしその剣が一本しかなくて譲ることにでもなったら。


 そんなことを思いフィナは失敗したと、なんでそれくらいのことに気が回らなかったのかと後悔した。


「──またバールのようなモノで戦わないといけなくなるのです」

「は? バール?」

「これはモエがまだ4階層にいた時のことです──」


 魔法の瓶から赤く塗られたバールを取り出したモエが語ったのは解体現場を通りかかった時におじさんから普通のバールの古びたやつを譲ってもらったというどうでもいい話だった。


 ただバールで戦うと高確率で血を浴びることになる。


 それだけならまだいい。


 大きな虫と戦ったときなどは緑色の粘液と卵に塗れてしまったのだ。


 鋭利な刃物ならそうはならない時でもそのバールで思い切り叩けば弾けるのだ。


 モエはそんな苦い経験をしてきたからこそ──投げつける鉄球はその手の被害を受けずに済むナイスな武器だと重宝している。


「あのドロドロはもう嫌なのですよ。生臭い中にほのかに草みたいな香りもして──」

「分かったからっ、もうそんな話はしないからモエもジャイアントカマキリの腹の話はやめて」


 イノシシを回収した2人はその後も何頭かのイノシシを狩り、ポータルで29階層のコミュニティまで帰還した。


 その帰還までの間にフィナはモエの“バールで倒して気持ち悪かった魔物上位5種”の話を延々と聞かされていた。


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