このところ出番が少ないのです
「──無事に倒せたわけだな」
もしかしたら起き上がることもあるかと、全員で取り囲み様子を見ていたオスメたちだが、階層主はピクリともせずオスメの腰に提げた魔法の瓶の中へと吸い込まれた。
「瓶に入ったんだ。それには生きているモノは入らない。間違いなく倒したってことだ」
ザーパフが答えて、次第に“南風”のメンバーが笑みを浮かべる。
「でも結局助けてもらっちゃったね」
補助と回復で手一杯だったユズと最後には密集しすぎてて魔法を打てなかったララは実感薄く、そう口にする。
「ま、まあわたしのナイスフォローってやつ?」
「俺もつい手を出してしまったな」
実際にはフィナは何もしていないし、何が攻略の糸口になったかも分からないから答えようはない。リハスも敵が向かってきたから応じただけだ。
「ねえシュシュ。あれってなんだったの?」
それでも答えが気になるフィナが素直にシュシュへと尋ねる。シュシュとしても答えるのはやぶさかではない。
「あいつは瞬間的な超スピードに加えてデコイを作っていたんだ。強力な魔力の力場だ」
「それがあるとどうなるのです?」
「モエもフィナもみんな知らず知らずのうちに攻撃に魔力を乗せている。その軌道がデコイに吸い込まれて、結果として外れてしまう」
シュシュが分かりやすいようにと地面に絵を描いて伝える。
「フィナ(俺)の放った矢は、デコイを貫いてさらに奥まで届いたんだ。本体が逃げた先に。思いがけない一撃に血が昇って飛びかかってきたのを今度はハゲの返り討ちだ。空中に舞い踊ったら逃げようがないからな」
そのあとを逃げる暇なく仕留めれたのは実力だとシュシュは“南風”の功績を讃える。
本当はシュシュが放った矢であり、デコイを看破していたのだから、その奥まで力場を無視して貫くようにと操作していた。
魔法はどうしようもなくデコイに吸い込まれ、剣も槍も“当たった”と錯覚させられた時点で追撃など思いつかない。
盾が攻撃を受け止める時を狙っても、地に脚がついているなら身体能力で回避される。シュシュの矢と、激昂した階層主の飛びかかりが決め手となった。
「何はともあれ──勝利だ、な」
幼女のひとことで皆が思い思いの勝利の感動を表してポータルへと入っていく。ようやく、この階層を攻略したのだと実感しながら。
「……事前に聞いていた情報にそんなものは無かったはずだけどな」
シュシュの呟きは先に全員が移動したあとの62階層で静かに広がり、消えて無くなった。
「小人族、ねえ。名前がポークでレベルは50とは恐れ入った」
名前以外嘘である。
63階層のギルドに到着したシュシュたちは、“南風”が階層攻略の報告をする隣でパーティにポークを加える手続きをしている。
「おいシュシュよ。さすがにこれは──」
「人道的な保護だ。それともおっさんはポークを誰とも知れない他人に預けて捨てていくのか?」
「ぐぅっ……言い方があるだろ」
「変わんねえよ。俺たちが見つけて助けちまったんだ。最後までとは言わずとも面倒くらい見てやりてえよ」
珍しいシュシュの殊勝な口振りにリハスもそれ以上言えなくなる。当然この怪しい幼女が言葉通りの考えなわけはないと知っている。だからこそ、それだけの理由が他にあるのだと理解して、口を閉ざした。
素っ裸では豚獣人と見られるために、今は素肌にぼろ布をぐるぐる巻きにしたミイラみたいな見た目のポークはシュシュの言いなりに嘘の自己申告でこの場をやり過ごす。
「パーティ登録完了……っと。じゃあちょっくら行ってくっから、おっさんは“南風”とここで待っててくれや」
「おい、行くってどこへ?」
「まあ、テキトーに25階層くらいか?」
「ポークのレベリングか。それなら俺も──」
「人数が多いと分け前が減るだろ?おっさんにはここで情報収集を頼むわ、な?」
「……むぅ」
「そんなに寂しいならフィナを付けてやるよ」
「ぐっ、いや……それには及ばん。俺に任せとけ」
「けっ、ヘタレめ」
顔を真っ赤にして断るリハスに背を向け、シュシュとモエにフィナがポークを連れてポータルを通過した。