ぽくの時代の幕開けですよっ
「上に、行くってのか」
「ポークを見つけたから保護するために戻るなんて事もねえだろうよ」
2パーティで行動しているのなら幼子ひとり増えたところで問題ないというシュシュと、フィナの剣のこともあるから戻るのがいいと言うリハス。
「そもそも携帯ポータルがあるんだから、危なくなりゃ使わせればいいんだ」
「数が足りなくなる。それはどうする」
「──そんときゃ俺が残って見送ってやるよ」
筋肉ハゲのをやれとか言われると思っていたリハスはシュシュの意外な回答に言葉を詰まらせてしまったが、それでもとギルドでの保護を提案し続けている。
だがシュシュは空返事ばかりで聞いていない。
(この豚に触れてみて、確信した)
シュシュはエルフ幼女になる前までは別の種族だった。
(ポークは獣人じゃない。魔物側だ)
シュシュはポークと対面した時から理屈ではない疑念を抱いていた。それは地下階層でフィナたちと話したときにも口にしたモノと同じ。
──魔物はわたしたちとは違う感覚器官を持ってるってやつね(第20話)
シュシュは巨大牛を神だと感覚で理解して、いまも目の前の獣人モドキが魔物だと理解してしまっている。
(見た目に、というのはやっぱりあのクルーンのせいってことなんだろうな。それにあいつは俺のことをやけに気にしている様子。俺が気付くようにあいつもって考えた方が自然。つまりは、消すか手元に置いておくか、だ)
シュシュの視線の先にいるポークはやはりチラチラと気にしているらしく、たまにシュシュと目があっては慌ててそらしてフィナたちとの会話に戻っている。
「上しかねえよ──」
シュシュたちが上を目指して進むのだから、同行させるならそれしかない。リハスの言葉など、シュシュの思考にとっては一考の価値もない。
「ぶたさんは歯が生えているのです」
「んぎっ、モエさんはそろそろ自重してほしいですよ」
遠慮のないモエの探究心は幼子なのに言葉を操るそのお口に向いたらしい。
「あら、じゃあ普通にご飯食べられたりするの?わたしの食べる?」
「俺のおかずぅ……」
「やめとけ、賭けに負けたんだから諦めろ」
魔物の数当てゲームでゲルッフから巻き上げたものの、2人分は食べきれないフィナがポークにおすそ分けするらしい。
ポークが欲しいと答えればひと口大にして食べさせてあげるフィナの行為にシュシュと話しているはずのリハスの眼光が鋭くなるが誰も気づきはしない。
「美味しい……やっとまともな食事をした気がします……」
ポークは咀嚼しながら、これまでを魔物から身を隠しながら雨水や草、虫などを食べてながらえてきた事をしみじみと語る。
「もっと、もっとたくさん食べていいんだからねっ」
「モエのもあげるのですぅ」
感度最大化のフィナはモエの単純すぎる思考に感化されてポークの身の上に同情し、モエも余っていた付け合わせのパセリをおすそ分けする。
「……けどさ、モリモリ食べてるとこアレなんだけど、豚カツって共食いにならないのかな」
「でもあんなに涙ぐみながら食べてるところにそんな事言えない」
ララとユズも謎のポークに同情してしまうところはあるが、そんな事が気になって仕方ない。
「みんな、みんなありがとう──」
ポークはその体のどこに入るのか分からないくらいの量を詰め込まれ、満ち足りた気分に包まれる。
そんな自分を静かに見つめるエルフ幼女の視線を気にしながら。たまに目があってしまうとつい逸らして誤魔化してしまいそうになる。
(聞かなきゃ、あのエルフの子に)
ポークは自分が生まれ変わったことを知っている。ステータスに表示された内容が嘘だと願いながら、自分が黙っていたならこうして誰も気づきはしないことも分かった。
(──彼氏はいますかって)
ぶたは心に誓う。モテなかった前世から記憶を引き継いで、この世界の秘密っぽい情報も手にした幼子は、突如現れ助けてくれたグループの中に混じる幼女に獣人として接して今度こそはリア充なるものになってみせると。
中身が大人な自分ならフィナのように将来美少女に育つこと間違いなしの幼女に今からカッコつけて守ってやりでもすれば、いずれはと。
だが残念なことに、向こうも中身はおっさんで、しかも腐っていたとは知るよしもない。