そこまでふざけるとは、いい度胸だ
「ぽくには、生まれる前と今。そしてその間の記憶があるんです。いまのぽくは──何者、なんでしょうか」
「ぶた、だな」
「えっ──」
羞恥に耐え、ぶたが真剣な顔でやっと口にした言葉は、シュシュのたったひとことで済まされた。
二足歩行の豚。シュシュよりもずいぶんと小さい彼はふっくらした幼児体形も相まって、人のカタチを取るものの立ち上がっただけの豚に見えなくもない。
「それはよ、結局獣人なのかそれとも魔物なのか?」
話が落ち着いたと見たのか、離れて様子を窺っていたオスメたちが合流する。
「見ての通り、獣人らしい。まあイレギュラーってことだろうよ」
「イレギュラーって……この赤ん坊が、高階層に裸でほったらかされているのは、そんな言葉で片付くことなのか?」
「前代未聞だろうけどよ、こいつの固有スキルでたまたま生き延びれただけかも知れねえだろ?目の前の事実を受け入れるしか無いわな」
「目の前の、事実」
オスメたちはみな、1階層で生まれて育ってきた。それが当然で自然なことなのに、不自然なほど慣れた幼女に言われて黙ってしまう。
「ねえ、シュシュちゃん。シュシュちゃんは何か知ってるの?」
「あん?俺はぶたの生態なんて知らねえし、魔物の蔓延る階層に放り出された赤ん坊が生きてられるかなんてのも知らねえよ」
「まあ、とりあえずさ──自己紹介でもしちゃう?」
ユズの質問にシュシュは知らないとしか答えられない。彼らはシュシュも何かしらの秘密を抱えていると考えているのだが、このぶたはまた別な事情によるものなのだろう。
見た目にも雰囲気的にも無害そうなぶたを前に、ララの提案でおのおのの自己紹介がなされた。
「──で、俺か。俺はシュシュ、エルフで美少女、以上だ」
「簡潔すぎるし自分で美少女って……」
「なんだよ、ララ。赤ん坊に難しい言葉で説明しまくる方がよっぽどおかしくねえか?」
「そ、それはそう、かな」
そうなると自己紹介自体が意味を持たなくなりそうだがララもよく分からなくなって苦笑いするしかない。
「これでこっちの全員は終わったわけでよ。ぶたさんの名前、聞かせてもらえるか?」
「はい……あの、怒らないでくださいね?」
「何に、だよ」
「その、なんにでも」
「怒るわけねえだろ。たかが自己紹介に」
今度はぶたの番だがシュシュの言動に不安でも感じたのか、予防線を張り、自分にだけ見えるステータスを呼び出して確認してから、覚悟を決めたように息を吸って名前を口にする。
「ぽくの名前は……ポークって言います……って何を、な、いだだだだだっ」
「あれはっ、今は失われた格闘家のスキル“コブラツイスト”かっ」
「シュシュちゃん、やめてあげるのですよおぉ」
推定1歳と少しの獣人の子どもにやり場のない憤りを関節技でぶつけるシュシュ。果たしてポークの運命やいかに。