おにゃこのこにゃにゃーっ
「ぽくは、前世の記憶を持っています──」
ぶたは、シュシュに向かい、話し始めた。
かつてはヒューマンの冒険者であり、獣人とは関わったこともないこと。その頃はまだ49階層で頭打ちだった攻略状況も地龍に出会ってはたまらないと挑んだことはなく、その少し下の階層を行き来していたこと。
「そして、攻略の最中にぽくは痛みとともに意識を失って、気づいたら空に浮いていたんです」
ぶたの視線はときおりモエやフィナに向くものの、シュシュのことを意識している。
(こいつぁ、なんとも……)
ぶたの話は湖と大地の祝福を受けて、生を授かったのだと繋がるのだが、その途中にやはりクルーンの話が出てきた。
「ぽくは、そこでぐるぐると回り続けていたんです」
「クルーン、ね」
フィナが相槌を打てばモエも「なのですっ」と言う。
「そこでポクは“あの穴に入るんだ”って言われているようで、狙いすましてどうにか真っ直ぐに、落ちるところだったんだけど」
ぶたは、何か大きな失敗でもしたかのように歯噛みする。
「“なにか”がそんなぽくを邪魔、したんです。そして別の穴に──何故だか、失敗したんだってハッキリと分かりました」
「失敗はつらいのです」
モエは「分かりますよー」などとぶたを慰めているが、フィナとシュシュは額に手を当て目を閉じ天を仰いでいる。
「その次もチャンスはあったんです。けれどそこでも得体の知れない……“なにか”に邪魔をされたのが分かって。見てくださいよ、これ」
ぶたは今度は自虐的な笑みを浮かべて、小さなちんちんと袋をペロンと上にめくって3人に見せた。
「女の子っ……男の子っ!女の子っ、男の子っ、女の子っ、男の子っ、おんににょこにゃにゃにゃーっ」
遠慮のないモエはぶたのちんちんをつまんで上げては下ろしを繰り返しながら混乱の極みに達してしまう。
ぶたは“ふたなり”で生まれてきたらしい。またしてもフィナとシュシュは居た堪れないとばかりに目を逸らすことしか出来なかった。
「もう、そのあとは覚えて(おぽえて)ないんです。ふたつの失敗は、決して取り返しのつかないことで、あとの何を頑張っても取り返しはつかないんだって」
だから、選ぶどころではなく、流れに任せて生み出されてしまった、と。
「最後なんて……みっつある穴のうち、ひとつは明らかにぽくを拒絶して、ひとつは定員オーバーとかって書いて蓋されてるしで──残りのひとつに落ちたら、気づいた時にはすでにこの階層だったんです」
恐らくは最初のクルーンで豚獣人の穴に落ちて、2つ目で男でも女でもない穴に落ちたのだろう。
途中のクルーンはフィナたちも知らないが、最後は行き先であったのだ。拒絶した穴は風が止まっていたのが復活して、定員オーバーは先に通った者たちが、いたのだろう。
考えるまでもない、フィナも聞いただけのシュシュもが分かる。フィナたちが通った時に一緒に転がっていたカケラだと。
「おにょこにょこにょこにょにょ……おにゃのこにゃらいっ」
気づいていないのはぶたの股間に興味の全てを持っていかれた猫ちゃんだけで、いつまでも触られて少し大きくなってしまっているが剥けていないぶたは、顔を真っ赤にして恥辱の涙をひと筋、静かに流した。




