あの時のぶたは青く煌めいていたっけな
リハスは僧侶でありながら力自慢の肉体派である。一個の岩ならともかく、レンガひとつであればどうにかその手で割ることも出来る。
フィナのよく斬れる剣はもしかしたらもう限界だったのかもしれない。
シュシュは手の中で風の刃を生み出し踊らせる。その中にはレンガが握られているのだが、一向に変化はない。
手ごろな岩にレンガを置いたシュシュは、モエに言って鉄球を叩きつけてもらった。
「──ふざけた威力だな」
オスメが呆れ半分で口にしたモエの鉄球がもたらした結果は、岩を砕き地面を窪ませ──レンガを柔らかな地面にめり込ませただけである。
「とっても、硬いのね」
「これを積み重ねて身を守っていたのねー」
ユズはその堅固さに素直に驚いている。ララも謎素材だとはしゃいでオスメたちで取り囲んでいる。
「──フィナ、モエ。緊急会議だ」
実験をいくつかしたシュシュは、騒ぎの中心から離れてふたりを呼ぶと、視線でレンガとぶたを示しながら口を開く。
「どんなに攻撃しても壊せないレンガに、見覚えはねえか?」
「あんなの知らないわよ?」
「なのです」
フィナはもうレンガのことはどうでもよく、愛剣の修理が気になって仕方ない。
「お前たちが地下に落ちてきた時に、一緒に落ちてきただろ?」
シュシュことグールのおじさんにフィナたちが出会ったのは、パンサーに追われるモエが塔の隔壁を打ち抜いて、フィナの不注意が隠し通路らしき床のトラップを踏み抜いたためだ。
隔壁のそと、回廊のように伸びた空間は床も壁もレンガ造りで、崩れ落ちたそれらとともにフィナたちは真っ逆さまに落ちていったのである。
「でも、硬かったかどうかなんて──」
「見た目は、軽さは?」
「それは、たしか……」
フィナとモエたちに降り注ぎ、しこたま頭を打ち付けたはずなのにコブひとつ出来ないほどに。
「軽く、硬かった」
「だよ、なあ──」
フィナの証言を得て、ますますシュシュの中で憶測が真実味を帯びていく。
「じゃあ、シュシュちゃんがおじさんの頃に言ってたあのお話」
「──ああ」
──今のガキはきっと固有スキル持ちになっただろうな。その内容は手からレンガみたいなブロックを生み出すとかかもな。
グールであったシュシュがあの地下階層でフィナとモエに言った事だ。
その時のシュシュに根拠があったわけではない。ひとまず関わりのない命の種をそんな風に茶化しただけである。
しかし、空に輝くカケラが命の種であるのなら、そこに取り込まれたレンガたちは何かしらの要素として組み込まれるだろうという想像をしてしまうのも、あながち間違いではなかっただろう。
「まさか、まさかだけどな。俺の戯言がよ、その通りになるなんてこと」
「聞いてみるのですっ」
「え、モエ?」
分からない事は考えても仕方ない。あまり考えるのが得意ではないモエの生き方といってもいい。
そして、がむしゃらに突き進むこともあれば、立ち止まり尋ねることもある。今回もそう。
「フィナさんっ、シュシュちゃんっ。ぶたさんはクルーンの穴を知ってたのですっ」
「こんのバカっ!」
「きゃいんっ⁉︎」
大声で。ぶたに直接聞きに行き、可能性が、推測が当たったことにテンション爆上げで戻ってきたモエは秘密も何も無くシュシュたちに結果を告げて、シュシュに思いっきり頭をはたかれてしまった。