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かわいいのですっ

 人狼は小屋の中から現れたぶたに、腕を広げ大きな口を開き威嚇する。


 まさに、これから食うのだと。


 ぶたもそんな未来が分かっているのか、絶望に震える目を開いた口から離せずに、うずくまったままだ。


「魔物同士の、食事風景か?」


 オスメやゲルッフが血まみれの食事を想像して眉根を寄せるも、その時こそが人狼が油断する時だと待ち構えている。


 リハスでさえ、それは当たり前に手も口も出さない光景である。


 だから、ここで哀れなエサが命を落とすより先に人狼の首を刎ねたのは、樹上の枝から脚力と風の加護を併せて飛び出したフィナの剣である。


 ぶたを救ったフィナの剣は、一直線に人狼の首を斬り放し、そのままぶたの眼前で止めてみせる。


 ──はずだったが。


「ぶっ──!」


 フィナの剣は確かにそこで止まった。寸分違わず、だ。


 剣は何か軽く、しかし硬いものに軽快な音を立てて当たり弾き飛ばした末に、その何かをぶたの顔面に強打させて昏倒させてしまった。




「はこっ、刃こぼれがぁぁ」


 原生林フィールドを照らす光の加減から、目を覚ましたぶたは最後の記憶からさほどに時間が経っていないことを知る。


「──ぶぅ」


 そして同時にピンチは続いているのだとも。


 目を覚ましたぶたは、自身が生まれたままの姿で縄で縛られ、その先を木に繋がれ逃げられなくされたうえに数人の男女に囲まれていることに気付く。


 周りを取り囲むように立つ人影たち。身動きを封じられ何もできないことを思えば、人狼から身を隠していたときよりも危うい状況だといえる。


「ん?どうやらお目覚めのようだぜ」


 槍の石突きを地面に突き立ててぶたを見下ろすゲルッフは、感情を込めない平坦な口ぶりで静かにオスメたちに知らせる。


「──ぶた、だなぁ」


 まだひと言も発していない豚を見て、オスメは魔物かどうかを判断しかねるといった感じである。


「二足歩行しそうなやつをぶたと呼んでいいものか」


「ぶひっ⁉︎」


 大きな体で日を遮るリハスに、ぶたは驚き震える。


「焼いたら食えるか?」


 さらにザーパフも現れて見下ろせばぶたの視界にはむさい男しか映らなくなる。


「まあ、よ。メシは別に用意してんだ。そいつをどうこうするのは、その後でもいいだろ」


 そんな男たちを割って現れたのは見目麗しきエルフの幼女。


「──ヒューマンみたいな足に、手指。顔もぶたの特徴が色濃いが、どちらかといえばヒューマンか。豚耳は可愛くはねえな」


 腰に手を当て前かがみになり、頭の先から足の先まで、値踏みするように眺めるエルフ幼女に、ぶたはついに口を開く。


「あのっ、助けてくださいっ!ぽくは魔物じゃないんですっ」




「──しゃべった」


 フィナが刃こぼれした愛剣から目を上げて、ぶたを見る。オスメも、みんながぶたを一斉に。


「言葉を喋ったのですっ」


「いや、モエがそれを言うかなあ」


 猫耳をピンっと立てて驚くモエにユズが苦笑いして突っ込む。


「ええっ、どういうことなのです」


「いやさ、だからあの子は魔物じゃなくて獣人なんでしょってこと」


「はうっ、確かにそうかもなのですぅ」


 言って、モエはぶたに近づき触れて確かめる。


 人狼が魔物に分類されているのは、ひとえにその凶暴性と身体的な特徴からである。


 全身を覆う長い体毛に鋭い爪、狼の口はヒューマンのそれとは全く形状が異なり牙がびっしりと並んでいる。


 対してこのぶたは──頭頂部に申し訳程度の茶髪があるほかはツルッツルの素肌。


 ヒューマンやエルフたちのように5本に分かれた指を持つ手足。控えめなおちんちんも。


 頭部についている豚耳は獣のそれを思わせるが、潰れた小さな豚鼻がついた顔はヒューマンのそれと大差ない。


 つまりは──。


「モエと同じ獣人さんなのですっ」


 モエの言葉が決め手となる。


 種族こそ違えど、見た目に可愛いといって間違いない猫獣人モエに、座らされ、ひっくり返され、匂いを嗅がれ、しっぽを引っ張られ、ちんちんを指で弾かれたぶたさんは顔を真っ赤にし言葉を続けることも出来ずに唖然とするばかりであった。



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