狼が狙うっていえばアレだろうよ
「ゲルッフ、敵の数は?」
「7体だ。心配で来たのか?オスメ。やれるさ、俺たちなら」
木々に身を隠しながら進むゲルッフは後衛の守りを放って駆け寄ってきたオスメに大丈夫だと告げる。
「わたしは6体だと思うんだけどなあ。オスメさんはどっち?晩ごはん賭けましょう」
フィナも気配を隠しながら進むが、こちらは木の上である。
すっかりエルフ気取りで進むフィナだが、この階層にくるまでの移動では、時折シュシュの弓矢で突かれて木から落ちたりもしたが、オスメたちと合流してからはそんな悪戯もなく楽しそうにしている。
「──モエが、匂いは7つあるが、そのうち1つは人狼じゃないと言っている」
「あら、じゃあ晩ごはんはわたしの勝ちね」
「んなっ、まだ決まってねえだろ?」
フィナはこれまでの攻略からモエの異常すぎる察知能力に幾度となく驚かされている。そのモエが言うならばもう確定なのだ。
「そう、決まってはいない。モエも“小さい”と言っていただけだしな」
他にも情報はあったが、本人以外に分からない未確認の情報をあまり広めて混乱させるわけにもいかない。
オスメは匂いでサイズが分かるのかと疑問ではあるが、注意を促すだけならそれでもいいとふたりの反応を見る。
「なら賭けはまだ分からねえな」
「小さな人狼って線もあるけどほぼ確定だからね」
「──いずれにしろ、油断は禁物だな」
「だね」
ふたりの様子に、オスメもいくらか安心した。
ゲルッフは歩みをさらに慎重にさせ、フィナはすでに人狼を上から捕捉している。
オスメが剣を抜く。
フィナもいつでも抜けるように構えて、ゲルッフも槍を持ち替えて不意の襲撃にも対応するべく神経を研ぎ澄ます。
そんな変化に反応したザーパフも盾を持ち前に出る。
筋肉ハゲはオスメたちにバフをかけていく。
「会敵、するわよ」
後方にいるモエたちにもフィナたちの緊張が伝わる。
「まあ、6体ってのは問題ねえだろ」
体力おばけなモエの背中から降りてシュシュが言う。
「問題は小さな気配?」
「モエがいってるだけだが、な」
シュシュはそう言うがユズは気になるようである。
「小さくても、強い魔物はいるもの。もしかしたら特別な人狼かも──」
魔力をたんまりと蓄えてあれば魔物は体の大きさに関わらず強いものである。ただ普通は大きな体あってこその貯蓄量なので、そんな例は少ないが。
「まあ、すぐに分かるだろ」
「うおおっ、かかってこおいっ」
魔力を解き放ち魔物を威嚇するザーパフ。相対する魔物たちのヘイトを一身に受けて、波のように押し寄せる攻撃をその大楯でさばきだせばオスメたちの出番である。
ゲルッフの弾丸のような突きが、オスメの力強い斬撃が人狼たちを襲う。
「──わたしの出番、ないじゃない」
ユズを助けた時の印象とは違う頼もしい彼らの戦いを、フィナは文句をつけながらも静かに見守る。
ほどなくして襲ってきた人狼たちを黙らせたオスメとゲルッフはその数を数えて「1体足りない」と辺りを見渡す。
オスメたちが木々の向こう、少し離れたそこにいる人狼を見つけるのは難しくはなかった。
しかし、その1体だけがなぜ別行動をしているのか。
オスメたちの隙を狙い窺っているわけでもない人狼は、赤茶色い小さな小さな小屋のようなものの前に立ち、腕を振りかぶっていた。
「何をしてんだ?あの人狼は」
そう呟くゲルッフもオスメたちもその動向に注視するなか、人狼の腕が振り下ろされれば、積み木を崩したような高めの喧しい音を立てて、小屋はばらばらになってしまう。
「──小さな、気配」
崩れた小屋跡には、人狼の鋭い爪と大きな口に怯えて頭を抱えしゃがみ込む──1体のぶたがいた。