誰がなんと言おうとヒーラーだ
「頼れるタンクがいるというのは、パーティとして安心出来るのだろうな」
「──リハスさんなら盾を持てばタンクもつとまりそうだが」
「俺は……僧侶だ。ジョブチェンジも考えてねえ」
「そう、ですか」
初日にモエが走り出したところから始まった共闘は、回数を重ねるごとにお互いの実力を知り、任せ合うことで余裕を生み出している。
遭遇戦の合間にはこうして雑談をしながらかけ足で進むくらいには。
「すこーし先の方に群れがいるわ。たぶん6体」
「くっそ……また先を越されたか」
周囲の警戒偵察には、槍のゲルッフに加えてフィナが参加している。
フィナもモエには敵わないまでも、新たに実感を得た風との親和性による探知を得意としている。ヒューマンであるゲルッフの探知ではいくらか及ばない。
「──けどよ、7体だ。上手く隠れているつもりの小柄なのがいるぜ」
「うそっ。じゃあ外した方が今夜のおかずを差し出す、でいいわね」
「上等。ならしっかり腹をすかせとかねえとなあ」
それでも経験が違う。フィナは再誕してから強くもなったし風の加護による恩恵を受けてはいるが、まだまだ完全にはほど遠い。
「──だそうだが、モエ先生としてはどうなんだ?」
彼らを前衛として後衛にはユズにララ、シュシュの3人に加えてモエも配置されている。ほかに前衛と後衛の塊の間にオスメがひとり、自由に動けるポジションにいる。
モエが後ろなのは、将を護る護衛的ポジションであるとともに、前衛に置くと他の出番が無くなるとのフィナからのクレームによるもので、モエは大人しくシュシュをおぶっている。
「うーん、数はそうなのですが……ひとつは人狼さんじゃ無さそうなのです」
(人狼、さん⁉︎)
ララはこの猫獣人がさんざん鉄球で叩き潰していた魔物をあろうことか、さん付けする神経に心の中で戦慄する。
「それは匂いなのか?」
「なのです。人狼さんより小さくって……あと息づかいなんかも、隠れて狙っているというよりは──怯えて身を隠している感じなのですよ」
「なるほど、な。じゃあオスメは前衛にそれとなく伝えておいてくれよ」
「──信用出来るんだろうな」
シュシュに当たり前のように頼まれたオスメは、モエの感覚に懐疑的であることを隠しもしない。
「だから“それとなく”だよ。俺だってマジかよって思う話なんだし、鵜呑みにして油断したところをガブっなんてのは勘弁だからな」
「でももし攻略組だったら……」
体の大きな人狼よりは小さめで、怯えてる気配。ユズはやはり自分の体験を重ねて不安げな顔でオスメを見る。
「──しゃあねえ。前に合流してくる。ここは頼んだぞ、ララ」
「まっかせてよね」
「モエも……」
ララに後衛を任せて先に行くオスメに、モエの言葉は聞こえない。小さく、消えそうな呟きは森のざわめきにかき消されていった。