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にゃつかしいのですっ

「“駆けてきた”ってのはっ!まんま“そういう事”だったのかっ!」


 比喩的に急いできたと言っていただけだとばかり思っていたオスメたち。シュシュは走るメンバーのうちでも女子に負担をかけまいと、オスメの背中に飛び移ったがそんな事を気にしている暇はない。


 道中に潰れた人狼が落ちていてもオスメたちは「マジか」と呟くだけですぐに視線を戻し、それらをシュシュが“サクション”で削り落とし込んでも誰も気づかない。


「11、12……距離的にいま戦闘していたわけでもなさそうだから、これが朝の散歩の結果か」


 シュシュは処理しながらもモエの“抜け駆け”がもたらした結果に満足げである。


 きっとみんなで出発した時にシュシュが処理出来るようにと配慮したであろう人狼の死体たちは、真っ直ぐに進むパーティの両わきに順番に並べられていた。


 それはモエを知らない者たちには少し違うが、あながち間違いでもない正当な評価を抱かせる。


「これらをあの3人だけで仕留めているのか」


「実力は確か、ということなんだな」


 オスメやザーパフもゲルッフも見せつけられた死骸たちにようやく、ユズの話が実感を伴って理解出来てきたらしい。


「見えたぞっ、あそこでやり合っている!」


「おいおい、オスメたちもあの中に入るってのか?」


 ゲルッフが見つけた戦闘にはモエたち3人を取り囲む人狼が少なくとも10体ほどいるように見える。


 シュシュはその1体に全滅しそうになっていた“南風”がやれるのかと、懸念しての質問である。


「群れの小物なら問題はないっ!俺たちだって」


「シュシュちゃん、私たちはあの場所まで人狼の群れを倒しながら進んでいたのよ。けれど必ずいる群れのリーダーは強さもまちまちで、あの人狼にだけ……言い訳だけど、ほんと油断していたのね」


 何かとプライドだとかなんとか煩そうな男性陣とは違い、出会った頃から素直なユズが言うならシュシュも納得するしかない。


「じゃあ、お手並拝見といこうかね」


「おう、だからよ──」


 オスメは言いながらシュシュの首根っこを掴んで背中から引き剥がし、並走するユズに投げて預ける。


「後ろで黙って見てな」


「シュシュちゃんは私とみんなを守ろうね」


 回復役のユズと魔法使いのララがシュシュを預かり、男どもが群れへと突撃した。




「なんだかモエはずいぶん人気ものになったのね」


「モエの知らない人ばかりなのですよ」


「──魔物を寄せつけるフェロモンでも出してんじゃねえのか?」


 モエたちは、はじめてこの階層に上がってからも地図に記された階層主の場所めがけて進んでいたために、目的が同じである“南風”が歩いたあとをついて来ていたことになる。


 それだけに、オスメたちが群れを狩ったあとで群れのリーダーに追い回されていたところに出会っただけのモエたちには、人狼たちが群れる魔物だという認識がない。


 孤高の一匹狼という認識である。


 ユズたちを送り届けるのも来た道を戻っただけにすぎないのだから、それ以外に人狼はもちろん群れにも出会っていなかった。


 同胞の血の匂いをさせる一行に、まだ出会ってない群れたちは遠巻きに警戒するだけだったからだ。


「じゃあモエが行くのですよっ」


 鉄球片手にモエはウズウズしていますといわんばかりに、目を輝かせている。


「だめよ、モエは朝から抜け駆けしたんだからしばらくはおあずけ」


「にゃんてことにゃのですっ⁉︎」


 モエは猫獣人になってから明らかに好戦的になっているが、フィナのそれは自信からくるものだ。


 再誕してからの自分は他人よりも、強い。


 だからこそ、それを伸ばしたくて、強さで圧倒したくて仕方ない。それは戦いに身を置く“神の塔”攻略組のサガとも言えるのかもしれない。


「いや、ここはひとつ俺が──」


「リハスさんが戦ったら“マッスルアシスト”不可避じゃない。またユズさんたちにオーガ呼ばわりされるのは嫌よ?」


「ぐぅっ…。」


 本来は回復役の筋肉ハゲが魔物相手に戦うときには、自己の戦闘力を高めるバフが欲しくなる。


 だがそれはシュシュの固有スキルの影響で“感度”が最大化したフィナにも大きな影響を与えるために筋肉美女エルフ化することをフィナは嫌がる。


「大丈夫だったかっ!俺たちが追いついたからにはもう怯えることはないぞっ」


 人狼たちに囲まれて立ち話するモエたちが彼らにどう映っていたのかは分からない。


 大楯を手にザーパフが乱入して“威嚇”のスキルで人狼たちのターゲットを取り、ゲルッフの高速の連突きが人狼の急所を貫通する。


「おお、パーティって感じだな」


「あーぁ、持ってかれるぅ」


 モエたちの中にいても、このメンバーたちはまとまりがないためにリハスは彼らの動きにひさびさに手練れのパーティ連携を見てつい感心する。


「待たせたなっ!“虎走・双爪斬”」


「そうそうそうっにゃのですっ」


 走り幅跳びのように一気に高く飛び込んだオスメが、抜いた双剣で人狼の首を一度にふたつ斬り落とす。


 オスメの持つスキルの中でも、モエはその語感が好きで毎回嬉しそうに真似していた。

 

 それを知っていてスキルを使ったオスメも、やはり変わらないモエに頬を緩ませるがまだまだ終わりではない。


「全員伏せろっ」


 着地したオスメはそのまましゃがんで叫び、みなが伏せたのを確認したところで、人狼たちを狙った横向きの雨が降り注いだ。


「ひゅー、大したものだな」


「べ、べつに魔法使いならこれくらい──」


「うちのモエを見てもそう言えるか?」


「……まあ、大したことあるわね」


 シュシュの褒め言葉にララも素直な(?)返事をする。ユズはそんなふたりを見て嬉しそうに笑っている。


 強すぎる水のつぶては、確かなダメージと満遍なく与えられるストレスによる疲労を起こさせる。


 そうなれば後は盾役のザーパフもが剣を取り仕留めていくだけの作業である。


「まだ気を抜くなっ!群れのリーダーが残っているはずだ、奴は賢くどこかから──ユズっ!」


 注意を促すオスメは後衛たちの背後に姿を現した人狼がユズを見下ろし襲い掛かろうとしているのを見て青ざめた。


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