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モエの頭には“ざまぁ”なんて無さそうだからよ

 フードコートでのやり取りはリハスがイジられた後に礼を述べて何かしらの形として受け取らせたい“南風”とそんなものは要らないと言う“美人三姉妹”(feat.筋肉ハゲ)によるせめぎ合いが行われ、最終的に朝メシを奢らせるという実に無欲な結論に至り、ちょうどごちそうさまをした所である。


「やあーっとよお、目標としてた62階層に着いたと思ったら、既に先頭は66階層だってんだからよ」


 皆と同じ椅子にお子さま用のクッションを乗せてちょうどいい高さになるシュシュは、当然ながらクッションを嫌がったのだが、食べ終わった今はクッションに膝立ちで背もたれに向かって腰から折れ曲がる姿勢という実に子どもらしい落ち着かなさである。


「まあ、一年ちょっともすれば最高到達階層も更新されてるよね」


 そんなお子さまを眺めるフィナは、このお子さまが実のところ100歳をゆうに超えるおじさんだと知っているために、複雑な気持ちである。


「どんだけダッシュして来たと思ってんだ、ったく」


 タイムアタック気分で毎日を駆け足で攻略して来たモエたちだ。


 スタートの時のゴールにたどり着いた時に、ゴールが更に上にズレていることも想定内で、シュシュも分かっていて口にしている。


 相手の反応を見たいのだ、モエのために。


(パンツ)

(パンツ)

(かぼちゃパンツ)


 いつも命がけの冒険者もさすがに幼女に欲情したりはしないが、目の前で遊ぶ子どもがいることを再認識するのにこれほど効果的なものはない。


 命がけの“神の塔”のそれも最前線にほど近い階層にかぼちゃパンツの幼女。


「シュシュちゃん、またパンツ見えてるよ……。けどダッシュしてきた、ってそれはどういうことなの?」


 ユズの質問にシュシュは待ってましたとばかりに勢いよく体を起こして、その勢いで椅子ごと後ろに倒れてしまう。




「まあ、ほら。ポータルでひとっ飛びとはいえよ、間をすっ飛ばして来たら経験値もクソもねえだろ?そんなんで最前線なんて死にに行くようなもんだ」


 顔面から落ちたシュシュはなんとかお澄まし顔を作りながら椅子とクッションを戻し、よじのぼって話を始める。


(子ども)

(子ども)

(幼女)


 男性陣も女性陣もその視線は訝しむものと見守るような優しさの入り混じったものになる。


 それはそれでシュシュの思う壺というやつで、“南風”の顔は次の瞬間には驚愕に染まることになる。


「だから俺たちゃ、50階層をスタートとしてここまでを走り抜けてきたんだ。結局一年ちょっとだったか?かかっちまったけどよ」


「バカなっ!そんな事があって……いや、何かツテでもあったなら……いやっ、それでもこんな子どもまでもが!」


 “南風”のリーダーであるオスメの困惑は当然である。


 シュシュが“一年ちょっとかかっちまった”と言ったのは、モエたちが行方不明になっていた間に、最前線組が49階層から61階層に到達するのにかかったのが1年ほどだったからだ。その記録を超えることは出来なかったと。


 しかし、最前線組は4人パーティではない。ましてや10人や20人などでもない。


 当時は100人以上もの群れとなって、昼夜関係なく怒涛の勢いで攻め立てたのだ。地龍の滞在による攻略不可な状況でもレベリングしていたような連中が、物量で攻め込んだ結果の1年。


 いまや攻略済みでポータルも解放されているとはいえ、高速効率重視攻略により現状でも平均45レベルほどしかないモエたちとは条件が違う。


 なのでオスメがツテと言ったのは、高レベル帯のパーティ複数に連れて来てもらったのだと推察したためだ。


 それでもその速さと、目の前の幼女を連れてくるという非常識を誰がするだろうかという疑問が、推察を否定してくる。


「──見た目に惑わされてちゃ足元すくわれるぜ?」


(かぼちゃパンツのくせに⁉︎)


 とはいえ、これまでも、ユズの話にも、この4人以外の登場人物はいない。


 そして、本人たちの体験談が一番伝わるであろうことは分かりきっているのだ。


「私も、信じられない気持ちだけどさ。あの人狼を一方的に仕留めちゃったのよ、モエたちは」


「──それは、そんな、え?」


 ユズの証言にオスメもザーパフもゲルッフも、自分たちが命からがらの体で逃げ出した魔物相手に、という気持ちが隠せない。


「本当よ。ユズに掴まれてもう死ぬんだわって思ったところに──オーガが、あれ?オーガの夫婦が、ああ……どうなって、あわわ」


 疑いのオスメたちにララも真実だと口を挟むが、思い返して何やら記憶の混乱が引き起こされる。


「ララ、しっかりして。オーガ夫婦は僧侶とエルフだったのよ。オーガ夫婦なんてものは居なかったのよ」


「オーガ夫婦が、居ない?あれは、夢、だったの?」


 同じ体験をしたはずのユズの言葉に、錯乱しかけたララは安堵し、記憶がクリアになっていく。


「そうよ、ほら見て。私たちは、生きてるっ。ほら、ね?」


「生きてる……そう、猫獣人の鉄球が人狼を粉砕して──」


 ララの記憶を辿る呟きにオスメたちもモエを見る。口の周りにべったりとパンケーキのハチミツをつけた間抜け面である。


 そしてララの目はフィナとリハスを捉える。


「エルフと僧侶は……オ、オーガっ、エルフと僧侶の正体はオーガっ!」


「誰がオーガよ(だ)っ‼︎」


 オスメたちの驚愕を誘えて満足なシュシュは思いがけないララの錯乱により、オーガ夫婦の慌てっぷりが見られてひとり腹を抱えて膝を叩きながら笑い転げた。


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