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野獣よりは美女だろうよ

「ああっ、ユズにララっ!無事だったか!」


 モエたちの救援で事なきを得たユズとララは、“南風”の飛んだ先が同じ階層のコミュニティであることから、来た道を戻り仲間と合流を果たした。


「心配かけてごめんね。モエたちのおかげで助かったわ」


「そっか、それはそのモエって人に礼を言わないとな……」


 ユズがそう説明したところで、“南風”のリーダーである剣士の彼には、どこのモエさんなのかなど分かりもしない。


「オスメさん、相変わらず臭いのです。お風呂に入ってるのです?」


「誰が臭いかっ。2人が心配で俺はそんな……そんな?」


 よく鍛え抜かれた体躯の彼は確かに戦闘していた時のままの汚れたナリをしてはいるが、この“神の塔”に生きる者たちにとっては普通のことである。


 そんな普通のことではあるが、そうやって自分をイジる女の子にオスメは心当たりがある。


 そう、いつも鉄球片手に物理戦闘ばかりしていた魔法を使えない魔法使いの女の子。


 オスメの目の前にはまさにその子に瓜二つなケモ耳、しっぽの──


「獣人か、異種族の匂いが気になってもあまり言わない方がいいぞ?」


「モエはモエなのですっ」


「──何がどうなって……」


 良く似ている獣人かと思ったが、頭の中まではさすがに似ないだろうと、目の前の彼女がモエだと認識して、ずっと下の階層で追放した彼女が何故ここにいるのか、ユズを連れ帰ってこれたのか、そもそも種族は?などと疑問が溢れてオスメは思考を放棄した。




「まずは俺がチーム“南風”のリーダーオスメだ。ユズとララを助けてくれて、ありがとうございます」


 コミュニティの道端で立ち話も何だからと、一行が場所を移した先は屋台が立ち並ぶフードコートである。


 椅子があり机があって、朝の時間とはいえ朝食に限らず酒も出してくれる。


 一日の始まりに気合いを入れるのにもいいし、酒と肴で宴会も良しなこの場で、シャンプーをされる奴は前代未聞だろう。


 出来るだけ平静を装い、真面目な顔で礼を言うオスメだが、シュシュとフィナの爆笑を誘っただけであった。


「──オスメ、それがお前の選んだ答え、なのか」


「ああ、ザーパフ。理由がなんであれ辛い想いをさせたのは間違いない。こんな事で許されるとは思っていないが……」


「罰ゲームじゃないのですよっ⁉︎」


 “南風”のメンバーも集めての話し合いの場だが、彼らは皆一様に申し訳ないような顔つきでモエのしたいようにさせている。


 衆人環視のフードコートで謎のシャンプーはかなり恥ずかしい事だが、それでもと耐えるオスメにザーパフと呼ばれたタンクの彼も次は自分の番かと覚悟を決めていた。


「すんすん……頭だけじゃ足りないのです。けれどさすがに嫌なので……えいっ」


 この場合どちらが良かったのだろうか。


 男をひん剥いてその体をまさぐるのに抵抗を感じたモエは、座ったままの彼の頭を上から水で流して服までびしょ濡れにした。


 臭いと言われるのがいいか、フードコートで水浸しがいいか。


「──罰ゲームだろ、これは」


 リーダーが泡だらけになったのを見て槍使いの男がそう呟いた。




「リーダーのオスメに、タンクのザーパフ。槍の彼はゲルッフで魔法使いの彼女がララ。そして私がユズです。本当に助けてくれてありがとうございます」


 気を取り直して、とユズがずぶ濡れ男子三名を含めて“南風”のメンバーを紹介する。


「まあ礼はもういいさ。そんなものより欲しいものがあるんだからな」


 帰ってくるまでも、帰ってからもお礼祭りでさすがに食傷気味なシュシュがもういいと話を進める。


「ああ、確かにその通りだ。しかし差し出せるものは……金は間に合ってそうだし、何がいいだろうか」


 真面目な顔で答えるオスメの髪を流しきれなかった泡が伝い落ちる。


「ああ、もちろん金なんかじゃない。そこの、ユズ。僧侶が欲しいな」


「──っ!確かに、見たところそちらには回復役もいないようだから、その交渉は分からなくもない」


「おい、ちょっと待て」


「だがユズはここまでずっと俺たちとやってきた仲間。代わりにポーションなどを融通するというのではだめか?」


「おいおい、シュシュも何を言って──」


「狂戦士の彼も気を遣ってくれているのか?どうだろう、やはりポーションで──」


「俺は狂戦士じゃねえっ、このパーティの僧侶だっ!」


「──彼は何を言ってるんだ?」


 狂戦士呼ばわりに声を荒げたリハスと困惑のオスメ。


 ぶわっはっはと笑うシュシュとフィナにモエも「なのですっ」とよく分からない相槌。


「──だからよ、こっちの筋肉僧侶とそっちの美人僧侶のトレードをどうかなと言ってんだわ」


 ヒイヒイと笑いを堪えてシュシュが説明する。


「そ、それだけは、勘弁してくれ──」


 ただの譲渡よりも深刻で悲壮なオスメの返事。


 ユズはともかく魔法使いのララも「筋肉オーガが相方に……?え、ちょ……」と全力で引いている。


「てめえら、後で覚えておけよ」


 額に青筋を浮かべる筋肉オーガ僧侶ことリハスをシュシュがいじって遊ぶのはいつものことだと、フィナとモエがお礼など要らないと答えてもしばらくは疑心暗鬼の“南風”であった。


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