匠のワザなのですっ
「──へえ、モエを追い出したパーティの」
シュシュの言葉には遠慮というものがない。
「そそ、それはモエが悪いのですっ。モエが魔法を使えないから……」
「だからまあ、魔法使いを加入させてもいるんだよね」
同じ追放されたフィナも複雑な気持ちが隠せない。
しばらく見なかったかつての仲間が空から降ってきて人狼を叩き潰したあと、オーガの夫婦かと思われたのはハゲのヒューマンと美人エルフであり、風にめくれたエルフ少女のスカートの中はかぼちゃパンツだというところまで知った僧侶と魔法使いの女たち。
「──そのことについては弁解も反論もないわ。そのうえ助けられて。罵るなら罵って──」
「そら追放するわなっ!魔法使いなのに魔法が使えねえんだからよ」
だあっはっはと笑うシュシュにモエも「なのですっ」と一緒に笑い、フィナも「魔法の使える魔法使いが欲しいのは当たり前よね」と頷き、リハスも頭を光らせて頷いている。
「──え?いや、いいの?私は別に責められても……」
「なんでえ、責めて欲しいのか?みんな命がけなんだ。仲間を選ぶのも仲良しこよしで死ぬのも自己責任だろうがよ」
「でも、それでもずっと一緒だったのに、ひとりにさせたのに──」
「大丈夫なのですよ。モエはそれでもみんなのこと、好きなのですよ」
「モエ……可愛いっ!」
「にゃーっ⁉︎」
腰まではありそうな長い茶髪に切り揃えられた前髪の僧侶は、優しく微笑み許してくれるどころか好きだと言ってくれるモエにたまらず抱きついてしまう。
「くっ、耐えるのよフィナっ、わたしは出来る子……耐えて、耐えるのよ」
「あたしも抱きつきたいっ!」
魔法使いの彼女も抱きつきモエを揉みしだいた結果、当事者のモエではなく“感度最大化”でモロに感じたフィナが先に倒れてしまった。
「えっと、改めましてチーム“南風”のヒーラーやってますユズです。人狼に追われてみんな先に戻ったんだけど私がその、携帯ポータルを失くしたみたいで……あと今の状況を誰か説明いただけます?」
落ち着いて自己紹介を始めたユズの頭は今あわあわである。テンパっているわけではなく、泡だらけの頭はモエの“水使い”と“指使い”にスライム魔法を合わせた即席シャンプーの洗礼を受けている最中。
「あたしは南風の魔法使いララ。30階層でそのモエちゃん?の代わりに加入したんだけど……なんでこんなに気持ちいいの⁉︎」
こちらもモエのシャンプーの洗礼を受けている最中である。かといってモエの腕が4本あるわけではなく、モエが片手ずつでやるという普通ならただの横着にしか思えない作業をエステレベルでやってのけているのだ。
「モエの魔法のとりこになりそうだな」
「魔法なの⁉︎便利さがピンポイントすぎない⁉︎」
追放した魔法使いの魔法が限定的すぎてユズもすごいのかどうか分からない。
「けどそっか……あのモエも魔法が使えるようになってここまで来れたんだね──ってなれないっ⁉︎」
「ユズちゃんはさっきからどうしたのです?とりあえず流すので頭を下げてくださいなのです」
当然屋外のそれも男がいるところなのでユズもララも服を着たままの美容院形式である。
「なんかすっごいさっぱりしたあっ」
フィナが髪を拭いてあげてシュシュがそよ風で優しく水気を飛ばしてやればさっきまでの人狼に追いかけられた恐怖もそのあとの諸々の疑問もさっぱり綺麗に流れて晴れやかな笑顔になる。
「──いやっ、疑問だらけだわっ!」
「にゃ⁉︎」
空に浮かぶ雲を数えたりして意識を飛ばしていたユズはそれでもスッキリサッパリとはいかなかったようだ。