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あっちに獲物の匂いがするのですっ!

 足元も安定しない原生林のフィールドは遠くから滝の音が聞こえる。


「うぐっはあ!もう無理だろ、携帯ポータルで帰ろうぜ」


 巨大な盾を持つ男がこのパーティのリーダーにそう告げる。


「……仕方ない、全員離脱する。ギルドのポータルで会おう」


 剣士の男がリーダーらしく、こちらはさっさと自分の携帯ポータルを発動して去って行った。


「早くしろよ、奴も追いかけてきているはずだ」


 タンクの男も消え、槍使いも消えて、魔法使いの女も続いて携帯ポータルを手にする。


「待って、まっ──私の、私の携帯ポータルが、ないのっ」


「ええっ⁉︎でもそんなこと言われても……」


「少しだけ、少しだけ探すからっ」


 僧侶の女は鞄を、ポケットを、魔法の瓶をひっくり返して探すが彼女が持っていたはずの携帯ポータルは見つからない。


「だめっ……すぐそこまで来ているっ、あたしは行くから、生きてっ……って掴まれたら飛べないじゃないのっ」


「み、見捨てないで、私ひとりだけじゃ逃げられない」


 魔法使いの女に縋り付く僧侶。


「だからって──ほらぁ、もう来ちゃったじゃないのっ!」


 先ほどから彼女らが逃げ惑っていたのは、身の丈3mはあるだろう巨大な人狼からである。


 鋼のような肉体で木々をなぎ倒すほどの攻撃には屈強なタンクの男も抑えきれずに吹き飛ばされていた。


 パーティで1番の火力を誇る剣士の斬撃は表面を撫でるだけに終わり、槍は逞しい腹に突き入れたときには先端が砕けて使い物にならなくなっていた。


 そんな有り様では逃げるほかなく、どんなに走ろうとも獣は迫り、音はずっとつかず離れず聞こえていた。


 抵抗する体力が無くなるのを待つかのように。


 そうして追い詰めた獲物の動きが止まったのを感知してか、獣の駆ける音は大きくなり、やがて歩調を緩め、逃げ遅れたふたりの目の前にその姿を再び現した。


「い、いやよ、私は──」


「見捨てないで!お礼はするからっ!だからっ」


 パーティでの友情は時として足枷となる。


 魔法使いの女は途中加入してからも色々と世話を焼いてくれた僧侶の彼女を突き放すこともできず、僧侶の女はふたりでどうにか生き延びることを切に願う。


 だがこの命の奪い合いの場でそれは、えてして悲しい結末しかもたらさない。


 例えば、都合良く助けが現れたりしない限りは。




「“マッスルアシスト”っからの──“マッスルブースト”っ」


 今にもか弱そうな女を喰らおうとしていた人狼を横合いから現れて殴りつける人物がいた。


「ひっ⁉︎オーガっ⁉︎」


「誰がだ!」


 およそ見かける人の中には存在しないレベルの筋肉の塊がトゲつきメイスというよりは金棒を手に現れ、捕食者たる人狼を殴り飛ばしたのだ。


 脅威が人狼からオーガと呼ばれる鬼に変わっただけにしか見えない女たち。


「まあ、そう言われるのもわかるよね」


 殴られた人狼を迎撃したのは美しい金髪の揺れる──


「メスのオーガ⁉︎」


「誰がよっ!」


 細身の剣で斬りつけられた人狼には浅くはない傷がいくつもついて、またオスのオーガの前に転がされる。


「嬢ちゃんたち、ちょっと下がろうか」


「可愛いエルフ少女っ⁉︎」


「はっは、間違いじゃねえな。それよりももう少し下がろうな」


 もはや何が出ても驚くばかりになった魔法使いと僧侶の女性たち。


「うちの猫ちゃんが──」


 言い終えるより先に、待ちきれない彗星が空から突き刺さる。


「──来るからよ。また派手にやったな、ったく」


 鉄球が突き刺さってクレーターの出来た地面には真っ赤なシミが広がっていく。


 だがそれも気づいた時には人狼の死体ごと消えて無くなっている。


「──ごちそうさまってな」


 きっと目の前の舌をぺろりとするエルフ少女が何かしたのかも知れない。


 けれど、僧侶の女はそんなことには構わず口に出さなければ収まらない言葉がある。


 人狼の頭を打ちつけた鉄球とともに落ちてきて、その鉄球の上でしゃがみこんでまだ顔の見えていない人物には見覚えがある。


「バカみたいな鉄球……その水色の髪、背の割に大きな胸。まさかあなたモ──」


「なのですっ!」


 ピョコンっと立ち上がって見える猫耳、残像さえ残す勢いで振れるしっぽ。


 懐かしい仲間の声に顔をあげ立ち上がったモエの気持ちはそのしっぽに現れている。


「──誰っ⁉︎」


「モエはモエなのですっ!」


「このバカっぽい返しは本人しかいないわっ⁉︎」


 魔法使いの彼女を置き去りにツッコミに忙しい僧侶の女。


 かつて魔法が使えない魔法使いを追放したチーム“南風”の回復役の彼女と追放されたモエの再会は、フィナたちが攻略を進めて最前線にもうすぐ追いつけるかと言うところまで来たそんなある日の事であった。


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