やっと、ここからが本番ってやつだな
三角に立つ猫耳がピクピクと動く。
黒の長袖はタートルネックで手には黒い革のグローブをしている。
茶色のズボンは厚手で、以前は履いていたブーツをやめて今はくるぶしまでの黒い革のシューズである。
リハスの勧めでつま先に鉄板の入ったものを選んでいて、デザインもかわいいらしくモエは気に入っている。
金髪のエルフは動きやすさを求めてポニーテールにしたのだが、ちびっ子エルフが面白がって引っ張るために無理矢理のだんごにしている。
白のシャツと紺のズボンに革鎧を着込んだフィナは、茶色のブーツの紐をしめて履き心地を確かめている。
「よしっ、装いも新たに50階層に出発ね──って、シュシュとリハスさんは変わらないのね」
装備を整えるためと49階層攻略で得た資金を分配したのに、買い替えたのはモエとフィナだけのようだ。
「俺はこの格好でも変わらんからな」
赤いタンクトップに防御力はあるのか。
リハスが言うには、実は魔力的な効果があり、露出部までを覆う薄い膜が鎧の代わりとなっているらしい。
「まあこのハゲはあえてそう言ってお前たちに気を使わせないつもりだろうけどよ──」
1番防御力に不安のあるはずのシュシュは1階層でおばあがくれたゴスロリ服のままで何やら言いたいことがあるようだ。
「新しい階層に挑戦するのに食糧も薬も何もかんも忘れてただろ、お前ら」
「あっ……」
「ひうっ」
上階層から調達されたらしい素材の服に身を包んだモエとフィナの財布は当然すっからかんである。
49階層ではまだ備蓄があったから凌げたが、それももう底をついている。
「まあ同じ階層なら携帯ポータルだってコストは低いんだから……」
「格下の階層ならいいだろうがこの先はどうか分からねえんだ。準備はしておかなきゃ、じゃねえのか?おっさんよ」
「うぐっ……」
リハスが服を何も新調していないのはシュシュと同様にモエとフィナの分まで消耗品の購入に充てたからだ。
「ごめんなさいなのです……」
さっきまで屹立していた猫耳も今はペタンっと畳まれてしまっている。
「ま、なんだ……気にするこたぁねえ。モエたちが頑張ってくれりゃあいいんだからよ。なあ、おっさん?」
「ああ、その通りだ。この先も期待しているし、もちろん俺も戦う」
リハスが笑えば白い歯が光る。
「ありがとう。でも──マッスルアシストは無くて大丈夫だから」
「ぐっ……」
使われるとフィナはムキムキになってしまう。それが嫌だからではあるのだが、リハスとしてはアイデンティティを否定されたかのような気持ちになってしまう。
「さて、それでは行きますかねえ。先輩たちが切り拓いてくれた道のりを」
「なのですっ」
50階層は49階層と同じ赤茶けた大地が広がるばかり。
モエたちが49階層攻略をしているうちにも最前線組は最高到達階層を更新して今は62階層を進んでいる。
つまり、そこまでの情報はいくらかでも出ていて攻略の機運が高まっているギルドで手に入れる事が出来るのだ。
「──だからよ、俺たちは地龍も居なくなって攻略可能な道のりを情報という案内人付けていくんだ。そんなところはさっさと走り抜けて、追いついて──いや、追い越してやろうぜ」
「なのですっ」
「ちょっとシュシュ、そんなこと言ったらモエが本気にして突っ走って──って待ちなさ……もうっ、いくわよ!」
良くも悪くも純粋でまっすぐなモエは言葉通りに突っ走り、フィナの掛け声にシュシュもリハスも走り出すのだが。
「かっかっ!うちの猫ちゃんはマジに元気で頼りがいがあるな、なあおっさん」
「確かにそうだが、危うさも比例しているのが、な。それにしてもさっさと俺の背中に乗って楽しようとするのは──」
「体の小さな俺が脚で追いつけるわけねえだろ?ほら、さっさと行かねえと見失っちまうぞ?」
前を行くフィナに追いつけるはずもないと、走り出した瞬間には筋肉ハゲに乗っかり肩車の形をとったシュシュ。
生意気な金髪ゴスロリ少女を乗せてリハスは仕方ないとして走り出した。
最前線組へと追いつくために。
そして、「神の塔」攻略のために。
「待ってろ、クソ牛──」