2つずつあんだからよ。
「そういえば階層主の素材は高く売れたのか?」
リハスの意向を確認できたシュシュたちは飯屋に移動して温かい食事を囲んでいる。
「もちろん過去最高よ。けど武器防具を揃えるとなるとそんなに余裕はないのかも」
「なのです」
「おっさんはどう思うよ?」
「ん?まあ、攻撃は通用しているんだからまずは防具なんだろうな。ここのショップでもそれなりのは買えるから一度見て回るといいかもしれん」
リハスは冒険者時代に揃えた一式があるが、モエとフィナは29階層のもので、シュシュに至っては1階層でおばあから渡されたただの服だ。
「じゃあ明日はみんなで買い物ね」
「その間に俺はここのギルドの人間と話しておこう。
乗り気なフィナとモエにシュシュも同意するがリハスだけは別行動を取ると言う。
「おっさんはギルド職員だからか。そういやフィナたちはさっきあそこで職員と何を話していたんだ?」
盛り上がるフィナたちに困り顔の職員の間でどんな会話がなされていたのか。
「階層主攻略の記録にパーティ名を入れるかって聞かれたから」
「パーティ名?そんなのあったか?」
「決めてなかったのでモエたちで決めたのですっ」
「そ、そうか……で、どんなのにしたんだ?」
フィナとモエが決めた名前にシュシュはどうせロクでもないものだと思いつつ先を促す。
「“美人三姉妹”なのですっ!」
「自分で言っちゃうかぁ……しかしそれだとおっさんがいねえじゃねえか」
「本当はリハスさんも含めたかったんだけど、職員の随行者は含まれないから最初のは却下って言われたのよ」
「なのでこの名前にしたのですっ」
リハスもそれには「まあ、その通りだな」と仕方ない風に頷くが、だとするとその前には何にしようとしたのだろうかと思い聞いてみた。
「“美女たちと野獣”なのですっ」
「だあっはっはっ!筋肉ハゲはモエたちからしても野獣みてえってか」
聞いてその場に崩れ落ちたリハスにシュシュが追い打ちをかける。
そんなリハスにモエの「階層主との戦いが力強くカッコよかったからなのです」というフォローは聞こえはしなかった。
「で、なんで俺とシュシュが同じ部屋なんだ?」
ツインの部屋をふたつ借りたために、リハスは男1人だと油断していた。
「4人をふたつに分けるんだから当たり前だろ?それともフィナと一緒が良かったか?」
「……シュシュで構わん。それよりなんで脱いでいる」
「なんでなんでと子どもか?風呂はいんのに服を脱ぐのは当たり前だろ?あ、それともこんな幼女に欲情すんのか?」
壁一枚隔てた向こうではモエに欲情したらしいフィナとモエの争いが繰り広げられている声がする。
「そんなわけないだろう……」
さすがにリハスはこんなお子さまにムラムラしたりしない。
「じゃあ一緒に風呂入ってみるか。それともやっぱり幼女相手に欲情しちまうから服も脱げねえか?」
シュシュもおっさんの裸に興味などないが、試しにと煽ってみる。
「はっ、そんなもん子どもを風呂に入れるのと変わらねえ。風呂場で揉みくちゃにしてやるから覚悟しろ」
言って服を脱いで下着一枚となる筋肉ハゲ。
そこにガチャ、バーンっと扉を開けて突入してきたのは助けを求める猫ちゃん。
「フィナさんがっ、フィナさんが揉みくちゃにするのですっ」
「ちょ、なにも隣の部屋にまで……え、何してんの?」
モエを見て柔らかそうと思ったフィナは後ろから抱きついてみて、モエの反応に最大化された“感度”がその感覚をフィナに伝えて止まらなくなり、モエが助けを求めここに逃げ込んだのだが。
「お前らがキャーキャー騒ぐから辛抱出来なくなったおっさんがよ……」
ベッドにかぼちゃパンツ一枚で座るシュシュと、その前に立つパンツ一枚の筋肉ハゲ。そこにシュシュの根も葉もない証言。
「おいっ、そんな話が──」
リハスの言い訳をする相手は「どういうことなのです?」と分からないでいる猫ちゃんと、汚らわしいものを見たかのような意中のエルフ。
モエを回収して静かに閉じられた扉と「ドンマイ」と他人事みたいに言うエルフ幼女。
この日、リハスは風呂に入ることもなくベッドに頭まで潜り込んで出てくることはなかった。