次こそは倒してみせるのですよっ
階層主を倒したフィナたちはそのまま50階層へと転移して、ギルドで素材を換金している。
「この先全部の階層で安全地帯をギルド化してるって噂は本当なのか?」
階層主を撃破すればスタート地点にほど近いところを含めていくつか安全地帯と呼ばれるフィールドが発生する。
それは可視化されておらず、体感してはじめて気づくもので、スタート地点近くには必ずあることから階層転移してなるべく早く避難出来るようにとコミュニティが形成される事が多い。
そしてその全てをただの避難所ではなく冒険者に対してのサポートを担うギルド化するというのは、神の塔攻略への意気込みが感じられる。
「階層更新てのはそれだけの衝撃だった。俺もここいらにギルドを作るってなったときには数少ない高レベル職員として声が掛かっていたんだが──」
「フィナが忘れられずにあそこにいたってか」
「──フィナとモエのふたり、そのふたりの犠牲の上に道が開かれたのかと思うと、な」
憐れな生贄は猫化したりやけに強くなってたり、変な幼女を引き連れて帰ってきている。
「案外おっさんみたいなのがいたから、あいつらも俺もこうしてここにいるのかもな」
「俺も?」
素材の換金額に声を上げて喜ぶフィナとモエ。そのふたりは分かるがシュシュの出自をリハスは聞かされていない。
「──おっさんは、この先も一緒に来るのか?」
階層主撃破の記録が記された台帳を見てフィナとモエはまた声を上げてはしゃいでいる。
「強くてもまだまだ危ういお前らを放っていけるわけねえだろ。嫌だって言っても俺はついて行くぜ」
「そうか……」
お互いの顔を見て話すわけではないシュシュとリハスの視線の先ではフィナとモエがわいわいと盛り上がり職員が何故か困った顔をしているが、ふたりはそんな光景を大事にしてやりたいと思う。
「神の塔の外、だと?」
50階層で宿を取ったシュシュたちはふたつとった部屋のひとつに集まり明日以降の話をする。
そのまえに、とシュシュがリハスに明らかにしたのは塔の外と巨大な牛の話。シュシュが元男だったりグールだったりや、クルーンなどは秘密のままである。
「どうせ普通に攻略し続けてもあの牛コロならちゃちゃを入れにくるだろう。その時に改めて──話が出来りゃあだが、塔攻略したときに外へ出れるのか確認したいところだがな」
「お前たちはそんな重要な話を内緒にしていたのか?」
神の塔攻略はこの塔に生きるものたちの悲願。
けど何のために、と聞かれれば“あまねく世界の平和”としか答えられない。
「わたしたちが話して信じてくれる人がどれだけいるの?」
地雷ゲロコンビが話したとて耳を傾ける者などいないであろうことは明白。
「なのですっ」
モエのとぼけた相槌が妙な説得力を与えてリハスを「ううむ…」と唸らせる。
「俺はこの塔の外に、出る。それが目的だ。そのためならこの“神の塔”の神様にだって喧嘩売ってやる」
今のシュシュにはリハスをハゲだとかおっさんだとか呼ぶ時のユルさはない。
真剣な眼差しにはリハスをしてその年齢を錯覚させてしまうかのようだ。
「俺たち、でしょ」
フィナもモエも頷きシュシュと同じ目的であるとアピールする。
「お前たちはいいのか?あんな化け物とまた戦う事になっても」
「それを言うならシュシュこそよ。わたしたちはとっくに喧嘩したもの」
「モエの鉄球をぶつけてやったのですっ」
ふんっと鼻息荒げて言う猫ちゃんの尻尾がパタパタと振れてフィナに連撃を浴びせる。
「塔を攻略して外の世界へ、か」
リハスには実感が湧かない荒唐無稽な話ではある。
「無理することはねえよ。俺なら馬鹿げてると一蹴するような話だからよ」
シュシュもリハスがついてくるのであれば、聞かせておこうと思っただけで、ここで引き返したところで責めもしない。
周りに言いふらしたとしても妄言と言われるのがオチだ。
しかしそんな心配はこの男には必要ない。
「無理もなにも、目的がどうであれ過程も変わらんだろう。ついていくさ、そして俺にも見せてくれ──」
ハゲたおっさんの、想い。
「お前たちが何を成し遂げるのかを」