美しさのベクトルが違うのよぉ
「グルル……」
鋭い爪が、地面に食い込む。パンサーの方はいつでも始められるといった具合だ。
リハスはメイスを両手に持ち、こちらもいつでも動ける構えをとって叫ぶ。
「マッスルアシストっ!」
リハスを燃えるような闘志が包み、それはパーティメンバーへと伝播する。
「ぬうぅおおっ」
ぼこぼこっと盛り上がる筋肉。
赤いタンクトップさえはち切れそうなほどに盛り上がった筋肉は肩から先だけでも分かるほどに艶々と輝いている。
「お、おおっ?」
そんなリハスの後ろでシュシュが自身の体の変化を感じ声を上げる。
「ちょっ、ええ⁉︎何よこれなんなのよっ⁉︎」
隣のフィナも同様の変化を起こすのだが、その驚きようは“それ”と分かっていたシュシュの比ではない。
「ええ……シュシュちゃんもフィナさんもどうしたのです?」
唯一、見た目にさして変わらないモエは3人が同じように変化したことに驚き、若干仲間はずれにされたような戸惑いを感じている。
「なんでっ、なんで私たちまで筋肉うぅっ!」
フィナが叫ぶように、ふたりは世のビルダーたちが憧れそうな夢のマッスルボディを手に入れたわけだが、フィナはあり得ないと嘆き悲しむ。
「はっはあっ!これがあの筋肉ハゲのスキルか!」
フィナの“感度”とは違うリハスのそれ。
「“共有”最大化。そんなのがあるのかと思ってたが……サポートや回復を担う筋肉ハゲにはまさにもってこいだなっ」
シュシュはその結果に満足して、自分のゴスロリ細マッスルを撫でている。
「いやよ!わたしはこんなの……ってなんかシュシュとわたしでサイズ違うくない?」
いまやリハスサイズにまで膨らみ、服もパッツンパッツンのマッスルフィナとまだまだ女の子の範囲を逸脱していないシュシュは明らかにサイズが違う。
「もしかして年齢なのです?」
変わらず元のままの年上のモエが言ってもフィナは納得しない。
「いんや、フィナの“感度”だな」
「こんなところにも弊害があああっ」
膝をつき頭を抱えてのけぞるフィナ。
外野が騒がしい中、リハスとパンサーは壮絶な戦いを繰り広げているのだが、誰もそんなのは見ていないしリハスも気がついていない。
「──けどそれって回復とかも割り増しなんだろうな。良かったなっ、ハゲとフィナの相性はなかなかにいいぞ?」
フィナとが散々喚き散らしてシュシュが考察している間にリハスはパンサーと死闘を繰り広げ、我慢出来なくなったモエの鉄球が空から階層主ごと地面にいつもより大きなクレーターを作ったことで戦いの幕を下ろしていた。
「いやよっ!わたしはこんな筋肉なんていやよおおお」
「なっ……」
そんなフィナの叫びは戻ってきたリハスに、その部分だけを伝えてひどく気を落とさせてしまう。
「ん?どうしたんだおっさん」
「なんでも、ねえよ……」
リハスが戦闘を終えてモエとハイタッチした時には、彼が掛けたスキルは解除され、筋肉で膨らんだ美少女たちの姿は目にしていない。
「あら?いつの間に(姿が)戻ってたのかしら」
「──ぐぬっ」
戦っていたリハスがいつの間に戻ってきていたのか──そんな風に何やら自分を除け者にして楽しんでいたような女子の言葉を聞いてリハスはますます落ち込んでいく。
「モエ……俺をその鉄球でめり込ませてくれ。そのパンサーみてえに」
「ええっ、きっと無事では済まないのですよっ⁉︎」
「──やっぱやめとくわ……はあ……」
こうしてモエとフィナは新たなパーティで49階層へのリベンジを果たして先に進むことになった。