頑張ってなのですっ(小声)
ジリっとフィナの脚が慎重に動く。
体の前に構えた剣はいつでも対応できる柔軟さで今の彼女に焦る気持ちはない。
モエは「頑張ってなのですっ」と応援したところフィナに黙ってと言われてからは、口を手で覆って静かに立つだけにしている。
シュシュは元から動く気はない。
できることはある。例えば接近する前に射ち抜くとか。
けれどあまりそれをするとどこぞの弓が苦手なエルフが落ち込むから、と仁王立ちでこちらも見ているだけだ。
リハスはハラハラしっぱなしである。
華麗な剣技でこのスキンヘッドを魅了したエルフもさっきのは来ると分かっている事に準備を整えて対応しただけなのだ。
本来なら適性階層よりも20近く上の階層。
そんなエルフも目の前の俊敏な獣に対処しきれるかは分からないだろう。
「おっさん、手出しはすんなよ?フィナがやるって決めたんだからよ」
「わ、わかってらぁ……けど、危ないと判断した時には──」
「そん時はおっさんよりも早くうちの猫ちゃんが仕留めているさ」
うちの猫ちゃんことモエも目の前の猫から逃げ惑ったのはつい先日のことで、その時でさえモエは仕留めることが出来たのだからと今のフィナが対処しきれると疑いもしない。
パンサーが打って出る。ダダっと走り出せば滑るように左に右にと動き眼前に迫った獣の前脚がフィナに振り下ろされる。
そんな動きは今の冷静なフィナにはしっかりと見えていて、振り下ろしに合わせるように剣が下から迎えに行く。
「ちっ、速い」
さすがは素早さに特化した魔物で、前のめりの重心から無理矢理に体をひねり、バックステップでかわされる。
「けど──やっぱフィナは強えな」
パンサーの動きにこぼしたフィナの言葉は愚痴ではなくただの感想で、想定済みの経験済みのそれを言語にしただけでしかない。
振り上げた剣はパンサーのバックステップに合わせて間髪入れずフィナが詰めれば振り下ろしの斬撃となって頭を縦半分にしてしまう。
「本当に……レベル30、なのか?」
冒険者のステータスなんてのは自己申告だ。嘘をつこうと思えばいくらでもつける。
「ちゃんと、見ただろ?」
けれどそれはフィナたちの場合は当てはまらない。
何せあまり知られていないステータス開示をしてまでリハスには見せているのだ。
「うむぅ……そうだな」
「どう?わたし強いでしょ?」
パンサーを回収してモエと喜び合ったフィナがリハスに問いかける。
「──ああ。だが油断なく、いこう」
フィナの笑顔にノーと言えもしないリハスだが、今回は心からそう思い返事した。
「結局初日は俺とおっさんの出番は無かったわけだが」
「シュシュは弓でやっつけたじゃない」
「あれは──そう、たまたま、たまたまだ」
あれから日が暮れるまでフィールドを進んでこの日は休むことにしたフィナたち。
それまでを剣と鉄球が代わる代わる地上のパンサーを、空の飛竜を仕留めてご機嫌だったのだが、シュシュの弓の才には少なからず不満があるようだ。
「魔法も使えるのです」
「あれは──そう、精霊の力を借りただけだ。俺んじゃねえ」
うちの猫ちゃんもどうやらお株を奪われたと思っているようだが、そもそもその株はモエのものだったことはない。
「どうやら俺の仲間はおっさんだけかもしんねえ」
「人をハゲだのおっさんだのと言う子どもと?」
リハスのは完全な悪ノリだが八方塞がりのシュシュは「あーっもうっ!」と叫んで出されたメシをかきこんでは喉に詰まらせたりむせたりして、シュシュのそんな珍しい姿を見た3人が笑ったことで改めて仲良くしようと団結を深めることになった。




