チートよっ!こんなのチートだわっ!
転移した先の49階層では、あの時と同じ赤茶けた大地がフィナたちを迎える。
「うおっ⁉︎マジでか!てめえら相談もなしに──」
リハスが未だ自身で見たことのないその景色に、転移先がフィナのリクエスト通りであることを確信して詰め寄ろうとするよりも先に──フィナの剣が抜かれる。
「……っ」
あっという間の事だった。その動きは目の前でされれば姿を見失い、気づけば斬られたあとである。縦に見事に斬りわけられ、血を流し臓物をこぼして声を上げる間も無く絶命する。
「絶対に、来ると思ったから」
フィナはこの階層に訪れると決めた時から確信めいたものを感じていた。
そしてその時には有無を言わさず斬り捨てる、とも。
「すごいのですっ」
「はっ、声も出ねえか」
モエもシュシュもがフィナの動きに感心して褒め称える。
「──っ!はあっ、はあ……っ」
「息まで止めてたのか?フィナもやりすぎだな」
「ええっ、守ったんだからいいでしょっ⁉︎」
前に訪れた時にはフィナは開始早々に小型の飛竜に掴まれて危うく空の旅に出てしまうところであった。
常に上空を旋回している飛竜たちはこのスタート地点がある意味でのエサ場だとでも思っているのか、今回も現れた4人の中で1番食べ応えのありそうなリハスに狙いを定めて急降下してきたのだ。
だがそれは予期していたフィナによって両断され、他の飛竜は慌てて逃げ帰る結果となった。
「フィナとモエの冒険譚を聞いてたはずなのに迂闊じゃねえか?」
「ぐうっ……」
言い訳は出来る。
あらかじめこの階層に行くと言われていれば意識くらいしていたはずだ、と。
不意打ちで頭に血が昇っていた、と。
「──すまねえ」
「いいのよっ、わたしが先に言っておけば良かったんだから。だからシュシュもこの事でリハスさんを責めないっ!」
「はいはい。俺も少し言い過ぎたよ」
しかし素直に謝るリハスは文句をつける前にその覚悟をするべきだったと反省する。
シュシュ自体は昨夜の飲み会で気が大きくなったフィナとモエがリベンジ云々と意気込んでいたのを聞いていたから、可能性としてここに来る覚悟があった。
そして朝から2人とも酒が抜けてなかった時点でお察しである。
そもそも誰も今日この時までどの階層に行くのかを話に出していなかったのだ。
昨日29階層だったから今日は30階層だと思い込んでいた方も悪いと言えなくもない。
「今後はちゃんとコミュニケーション取ろうぜ」
「はいなのですよ」
空にはまだ小型飛竜たちがフィナたちを諦めきれないのか、グルグルと旋回しながら様子を伺っている、
「あれを気にしながら、進むのか……」
リハスが振り向いて見た飛竜の亡骸は手を広げたよりも大きく、その全身の筋肉に鋭い爪が食い込むのを想像すると血の気が引くような思いがする。
「まあ、正直うっとおしいよねぇ」
「弓で仕留めてみれば奴らも諦めるんじゃねえか?」
シュシュの提案にフィナは「仕方ないわね」と期待されている事を知って構えを取る。
「てええぇいっ!」
「どわあっ⁉︎真横に飛ばすやつがあるかあっ!」
「ふぇぇぇん、やっぱりこうなったぁ」
フィナの放った矢は手を離れた瞬間に左に鋭角に曲がりリハスの股の間をすり抜けた。
「弓矢は無理だよお」
「──貸してみな」
フィナから半ば強引に弓矢を取り上げたシュシュはその小さな身体で構えて引き絞り
「風よ──」
お願いするような口調とともに放てば空高く舞い上がり飛竜の一体をヘッドショットして仕留めてしまう。
「やったぜ、こいつは俺んのだな」
落ちてきた飛竜は落下の衝撃で全身をあちこち曲げてしまっているがシュシュはさっさと魔法の瓶にしまって、あとでリハスの見ていない所でサクションの魔法により吸い込むつもりである。
「おうおう、あいつらも散って行ったぜ」
こちらの攻撃が届き、仕留められるとあらば長居は無用とばかりに散り散りに飛び去っていく小型飛竜たち。
「な、なんでシュシュが弓を使えるのよっ⁉︎」
「あん?そんなもんエルフだからに決まってんだろ?」
「はうっ⁉︎」
華麗なるエルフ剣士フィナはシュシュの返しに堪らず膝をついて崩れ落ちる。
「というわけで、この弓は俺が借りとくな」
そんなフィナの反応などいつものことで気に留めないシュシュはパーティの遠距離担当として活躍することにしたようだ。