なんか今ならどこでもやれる気がするのよねっ
モエはブーツの紐を締めて立ち上がり足元を確かめる。
少しフラついた気もするがまだ獣人であることに慣れていないのかも知れない。
黒の長袖に白のズボンは自らの動きを妨げないストレッチ素材でピッタリと肌に貼り付いている。
ずっと愛用していたチョコレート色のローブはいまは腰にさげた2つの魔法の瓶の中にしまってある。
お尻の少し上から出している尻尾はあらためてどう動かしているのかモエにも分からないけど、思ったように動いているからそれでいい。
頭の上についた猫耳はヒューマンの耳とその機能がかぶっているのに決して身体に不調をきたしたりはしない。
「大丈夫よ、とっても可愛いから」
猫耳を気にしてか時折思い出したように触るモエに声を掛けたフィナは青いズボンに清潔そうな白のシャツ、カーキ色のフード付きマントは素朴だが見るものの目を惹く魅力がある。
寝起きに背伸びをして豪快にベッドに倒れ込んだが昨日までの疲れが残っているのかなと気にしない。
「おい、もう充分に寝ただろうよ」
仰向けに倒れ込んだフィナのおでこをペシっとたたいているのはツインの部屋一つしかなくフィナと同じベッドでスヤスヤとおやすみしていたエルフ幼女で元グールのシュシュだ。
白と黒のゴスロリ服の他にもヒラヒラしたヤツ(シュシュ表現)をたくさん“おばあ”からもらってきてはいるが、それらは色彩が明るくシュシュにしてみればダンスパーティにでも出るのかといった具合で、まだマシだからと同じ服を着ている。
ケツに食い込むと普通のパンツを拒んだために、その下はかぼちゃパンツだが、見慣れてしまえば案外アリなのかもとフィナも言っている。
「今日から新しい階層なんだからよ。ビシっと決めていこうぜ」
ストレッチと称してかぼちゃパンツをこれでもかと見せつける幼女にフィナとモエはたしなめられるが、その実100歳を軽く超えるおじさん幼女なのだから腹も立たない。
準備を整えて宿を出てギルドに行けば、待ち合わせた男とおはようの挨拶をする。
「──昔の血が騒ぐ、か。素直にフィナと一緒にいたいって言えばいいものをよ」
「そんなんじゃねえよ……間違ってもフィナに聞こえるようには言うなよ?」
赤いタンクトップにジーンズ、革のブーツはつま先に鉄芯を入れてあるというスキンヘッドはその手にメイスを持っている。
「それにしても、そんなゴリゴリのハゲなのに僧侶ですとか──」
「古傷を抉るな。バリバリのアタッカー編成のパーティで1番それっぽい見た目なのにメインが回復だなんて、と散々言われて嫌になったんだ」
フィナたちのパーティの危うさには盾となるタフな前衛がいないこともあるが、それ以上に回復、補助を担える者がいないことだと指摘して、それならと正式参加を表明したのが昨夜の飲み会でのことだ。
このスキンヘッドがフィナたちを気にかけていたのは、自身も志半ばで冒険者を引退していたからに他ならない。
「おや、リハスの旦那が冒険者稼業復帰ってのは本当なんすね」
「本当ではあるが現場視察と銘打ったギルド職員でもある。帰ってきたらまた世話になるはずだ」
トカゲのポータル屋とそんなやりとりをして4人は転送されるためにその小部屋に入る。
「転送先は何階層で?」
「んふぅーっ、49階層!」
「なのですっ!」
「んなっ⁉︎」
足元が怪しい猫獣人と背伸びひとつで倒れ込むエルフはまたしても酒が抜けていない。
朝から顔を赤らめた色っぽいフィナを見て照れたリハスはシュシュとばかり話していたせいでそんな様子に気づきもしなかった。
「早速最前線組みへと追いつくためっすか。復帰早々にさすがですよ、旦那はっ」
ポチっと押したトカゲをリハスは責める事は出来ない。
今回はシラフの2人もいたのだから。
リハスの最初の仕事は転送される自分の無事を祈る事だった。