エルフだからじゃね?
「携帯ポータル作戦はやらねえんだな」
日が沈み野営に入ったところでリハスがフィナに問う。
「それでもいいんだけどね。せっかくだしちゃんと稼いでおこうって思ってさ」
魔法の瓶にはそれほどの数の魔物は入らないだろう。
けれども売れる素材だけにしてしまえばその限りではない。
そうして溜め込んで、階層主を倒して帰ればそれなりの稼ぎになる。
「前は下層だったからあんまりいいものも無かったしね。それでも瓶に入り切らなくなったら戻るつもりよ」
「1番オーソドックスな攻め方だな。ん、これは美味いな」
フィナの取り分けた鳥の塩焼きをリハスは絶賛する。
「うちのフィナに料理をやらせたら右に出るやつはいねえからな。ハゲも狙うなら今のうちだぜ」
「んぐっ!ぐっ……ぐはぁ、なに、なに言ってやがる……」
辛うじて吐き出さずに済んだリハスは、焼けた地這鳥を取り分けるのに忙しいフィナには聞こえていないようだと確認してホッとする。
「また2人とも何の話してんのだか……」
「ハゲがフィナの料理に感動してるから金を取るぞってな」
「そんな大したもんじゃないでしょ」
フィナはいつも通りに手に入れた肉を捌いて焼いただけのつもりだが、シュシュの熟練度最大化はたったそれだけでさえその出来上がりを天と地ほどにも違うものにしてしまう。
「だが確かに俺は何もしていないからな。掛かった費用については攻略時点で支払わせてもらおう」
「そんな気にしなくてもいいのに」
「なのですよ」
そうして昼と夜を繰り返し過ごすこと半月ほどでフィナたちは階層主と対峙する。
「先手必勝なのですっ!」
「そのうえで一撃必殺ときたもんだ」
あのとき、モエが前のパーティでの最後となった時でさえ、危なげなく瀕死にして見せたのだ。
そんな赤い虎は振り抜かれた鉄球に頭蓋を砕かれて自慢の火炎を繰り出す暇もなく息絶えた。
「なあ、おっさん」
「おっさんではない、リハスだ」
「──レベル30でここの階層主を一撃の下に倒すヤツってのはどれくらいいるよ?」
「むうぅ……」
シュシュの言いたいことはわかる。
この2人はレベル以上の何かを持っている、この先の階層もやっていけるはずだ、と。
「だが、30階層より先は群れる小物を薙ぎ払える魔法の遣い手が不可欠──」
その言葉にモエの笑顔が曇り、シュシュがニヤリと笑う。
「“ダストデヴィル”」
エルフ幼女シュシュが手を大きく払うと強烈なつむじ風が発生し、辺りの木々は薙ぎ倒されシュシュのかぼちゃパンツが丸見えになる。
「──シュシュは魔法を、遣うのか」
「少しだけな。あんまりやるとウチの自称魔法使いが泣いちうからやりたくねえんだが」
根っこからひっくり返り、枝も幹もズタズタに切り裂かれた木々をみる限りシュシュの魔法もその威力は充分のようだ。
「な、泣いたりにゃんかしにゃいのですぅ……」
「ちょっとっ!なんで魔法が使えるのよっ。わたしも使えないのに!」
「精霊魔法だ。フィナもちょこーっとだけ使えているあれが俺は少しだけ得意ってだけよ」
「あれが少しっ⁉︎少しって……きいぃーっ!」
賑やかで退屈しないパーティはその実力もどうやら充分らしい。
「──なら、これ以上引き止めることも出来ないだろう。さあ、コミュニティに帰って精算といこう」
リハスに認められて、これからは遠慮なく上の階層へと進む事が出来るようになったフィナたちはコミュニティに戻って打ち上げの飲み会を行い二日酔いに苦しむことになった。