本当にロクでもねえ牛コロだ
小洒落たインテリアなどはない、板を打ち付けただけの壁に床。座る椅子はほぼベンチであり出されたお茶はさほどに美味しくもない。
ただここに呼ばれたフィナたちが難しい顔をしているのはそんな事が理由ではない。
「350年前……」
「2週間後……」
やけに数字を気にするのだなとスキンヘッドは思ったが構わず話を続ける。
「お前たちが手違いで送られた2週間後にその声は響き渡った。“憐れな2人の生贄に免じて地龍はその階層を離れた。再び攻略に勤しむがよい”と」
組んだ手を顔に当てて悲痛な表情をするスキンヘッド。
「俺はピンと来たぜ。地龍のいる階層に行った憐れと言われるような2人に──」
その時はひたすら悔やんだものだ、と。
「お前たちを送り出したポータル屋は解雇してある。もう1人は止める間も無くということで厳重注意だけにしたが、2人ともすまなかった」
ポータル屋の驚き様も、ギルドのざわつきもスキンヘッドの喜び様も全て、2人が死んだ事になっていたからだったのだろう。
「それは──もういいわ。その先も知りたいの」
フィナは2週間の数字に動揺していたが、それどころではないことに気付いて話の先を求める。
「それから──それからは順調そのものだ。49階層の主と思われていた地龍とは別に階層主がいたんだが、その知らせを受けた最前線組が攻略を再開すれば難なく倒したんだ」
そこの階層主は大きめのパンサーだったらしく、フィールドに現れるパンサーに慣れてさえいればさほどに苦労はしないらしい。
「元々地龍で行き詰まりはしていたが、冒険者もその実力を高めはしていた。地龍攻略の悲願に向けてだが、今の最高到達階層である61階層までを切り拓いた連中のレベルは平均で65にもなる」
逆に言うとそれだけあっても地龍を攻略出来なかったという事実が何者かの悪意を感じさせる。
「──あの牛コロだな」
経過年数の海底から意識を浮上させてきたシュシュが奥歯を鳴らして呟くがスキンヘッドには聞こえていない。
「お前たちが消えて約1年。たったそれだけで神の塔の攻略はここまで進んだんだ」
「1年ですって⁉︎」
「にゃにゃ⁉︎」
「おわぁっ!いきなり大きな声を出すなっ」
フィナたちはつい先日49階層に飛ばされたばかりだ。
49階層では3日を過ごし、あの地下では1日ほどだろうか。
湖に飛び込んだあとなどは牛から逃げてクルーンを通り抜けただけだ。
長くとも半日もいない。
そしてジャイアントカマキリを倒して悶えたのが今日のこと。
フィナとモエは指で数えるがお互いに記憶に自信を持てず正確な日数が割出せないでいる。
「まあ、驚くのも無理はない。たったの1年でそこまで進んだのだからな。しかし憐れな生贄がお前たちでないとすると誰だったんだろうな」
そのあとのスキンヘッドの話は3人とも余り覚えていない。
生返事ばかりの面々に「疲れているんだろう、なにせ1年も行方知れずだったんだからな」といってスキンヘッドが送り出してくれるまで、フィナたちはそれぞれに考えごとをしていた。




