何言ってんだこのハゲは
「ふああ、はいおかえりよ」
「ただいま」
「ただいまなのですっ」
「俺は初めましてだがな」
「んんっ⁉︎えっ!」
時刻は午後の6時を回った頃である。
各階層で色んな人たちが日夜塔の攻略のために忙しく動いている。
そんな階層の安全地帯であるコミュニティの冒険者ギルドにある転移ポータルの利用が1番多いのがこの夕方と朝方である。
いま何組かの帰還グループを迎え入れたトカゲのポータル屋はあくびをしながら通したグループが3人である事に加えて、見目麗しいエルフと独特の口調のヒューマンに憶えがあって眠気が一気に吹っ飛んだ。
「おい、あれ──」
「いや、まさかな」
「いつかの地雷ゲロコンビか?」
「まて、トリオになってるぞ」
「ロリエルフ萌え」
フィナたちがポータル用通路を抜けてギルド内に入れば、そんないくつものざわめきが人の多い時間帯にチラホラと聞こえてくる。
「お前ら、なんか有名人なのか?」
「い、いやぁ、それほどでも──」
「ないのですよ」
さすがに今回はそのざわめきに変な勘違いはしないフィナとモエだが、少しは気にしても良かったのかも知れない。
「ただいま、スキンヘッドさん」
「ただいまなのですっ」
その日の成果報告に並ぶ冒険者たちの列に並んでいたフィナたちの目的は総合カウンターで出会ったあのスキンヘッドである。
「お、お前ら、生きて帰ってこれたのか」
「もちろんよ、こうして手も足も全部ついて──こっちはオプションもついちゃったけどね」
「にゃのです」
大仰に驚く男の反応を見る限り、ポータル屋からの報告はあったらしい。
それに対してギルドがどうしていたのかは別として、フィナの手を取り安堵の息をつくスキンヘッドに関しては心配していたことは聞くまでもないだろう。
「ちょいちょい、うちの子にお触りは厳禁だぜ?」
完全に除け者にされていたシュシュだが単純にスキンヘッドからは見えない高さなだけであると気づいて、カウンターに飛び乗ってその握手をバッサリと切り離す。
「お、おう……うん?」
「えっと、オプションその2、かな?」
ともあれ3人は帰還を祝うスキンヘッドにより、粗末な別室へと案内された。
「ええっ、最高到達階層が61階層⁉︎」
「にゃ、にゃにがあったのですっ」
別室で3人がまず聞かされたのは塔攻略の現状である。
「おいおい、サプライズも大事だが、手違いで送り出した嬢ちゃんたちの情け無い冒険譚を聞いてからでも良かったんじゃないか?」
「──お前たちの武勇伝を聞く前にその話をしたのにはきちんとわけがある」
そもそもの謝罪なんかを引き出そうとするシュシュだが、スキンヘッドはその辺りに至る前にこちらを前置きとして話したかったのだと言う。
「本題、じゃなく前置き?おおよそ150年ぶりの階層更新がか?」
「そっちの子どもは勉強不足のようだな。前に更新されたのは350年前だ。その間ずっと“今に至るまで”も、俺たちの先祖は地龍を攻略出来ないでいた」
シュシュは紅茶のカップに口をつけたまま固まってしまう。
「それで──わたしたちに関係のある話が、あるのよね?」
フィナの認識はスキンヘッドと同じなのでシュシュが覚え間違いを指摘されたところで気にもしない。
「ああ、2人がその49階層に送られた2週間後のことなんだがな」
「2週間後……」
今度はフィナが、モエまでもが言葉を無くす。
「この“神の塔”のオープンになっている全ての階層で謎の声が響いたんだ──」
続くスキンヘッドの語りは3人に少なくない衝撃をもたらした。