先行き不安ばかりなのです ※イラストあり
「さて、と──もう少しマシな服はなかったのか?」
「何言ってんのよ、めちゃくちゃ可愛いじゃない」
「ほんとなのです。まるでお人形さんなのですよ」
塔に生きる者たちのほとんどが塔を登るため戦闘に明け暮れるというのに、おばあはどこから用意したのか持って来たのは白と黒のゴスロリ服である。
「ヒラヒラしてよ、こんなので何しろって言うんだ」
「ちょっと!なんでパンツ履いてないのよ!」
「食い込むんだよ!片ケツ出して歩けるかっ」
ヒラヒラするスカートが気になるのか、捲り上げて見せた中身はすっぽんぽんである。
「確かに履かせたのにのぅ」
「歴戦のおばあでさえも太刀打ち出来ない早脱ぎなのですっ⁉︎」
「上をいじってるうちに脱いでやったわ」
かかかっと笑うおじさん幼女はその姿が可愛いだけに残念さが半端ない。
「これっ、これならいいでしょう──よっ!」
「んんっ⁉︎まあ確かにこれなら、いいか」
それはおばあが持ってきたいくつかの中にあったもの。
食い込みもしないだろうし元男性のおじさん幼女も納得のそれは。
「かぼちゃパンツなのです。ちょっと見えそうで……見えているのです」
「あぁん?こんなもん見せパンだろうよ」
「違うんだけど、まあこんなのに欲情するやつもいないでしょうからいいか」
膝丈のフリフリスカートからはぎりぎりかぼちゃパンツの裾が見えていて、おじさん幼女が戯れに前屈をすればもう丸見えである。
「ところでわたしたちは、これからどうすればいいのかな?」
「モエたちはとりあえずは29階層に行くのです?」
「おいおい、俺もその中に入ってるよな?こんな姿で置いていくなよな?」
モエたちはそもそも19階層の攻略をするはずだったのだ。
それが間違って49階層に飛ばされて、地下に落ちて何故か生まれてきた。
「そっか、一緒に行くとなるとおじさんのレベルが……」
「モエたちのレベル的には適性階層なのです。でもおじさんは……」
「その、“おじさんは”で言葉を詰まらせるのはやめてくれ。確かに生まれたばかりだからレベルは低いんだろうけどよ──」
おじさん幼女は自分が邪魔だと思われるのが多少なり辛くてそう言ったのだが、フィナとモエには違う意味に聞こえたらしい。
「確かにもう“おじさん”じゃないのです」
「そうね、これから一緒に過ごすとしても“おじさん”はおかしいわよね」
「おい、何言ってんだ。そんな事はどうでもよくってよ──」
「どうでもよくは無いわよっ」
「無いのです!」
「んぐっ⁉︎そうなのかっ?」
女子たちの強めの抗議におじさん幼女もさすがにたじろいだ。
「これからわたしたちの華やかな活躍のたびに、絶世の美女エルフのフィナと可憐な猫耳っ子モエ、謎のエルフおじさん!なんておかしいでしょ!」
「な、なんだそりゃ」
「そうなのですっ。あの美女揃いのパーティは何なんだって噂になっても、おじさん幼女なんておかしいのですっ」
「お前らの今後にそんな予定があるというのか?」
2人の話を聞く限りではどうも追放されてゲロまみれになって、酔い潰れた挙句に死地に飛び込んで死地どころか死者のたどり着くところに落ちてきた、どうしようもない連中である。
「「目標は高くっ!」」
けれど訳の分からない事を言うこの2人の笑顔を見れば、目的を果たせなかった元グールで今はエルフ幼女なおじさんも先が楽しみな気がしてくる。
「──現実を直視してから、だな」
おじさんの名前をどうしようかなどと話し始めた2人は、聞こえなかったフリしてやり過ごした。
「ぬっはっはっ! ひらひらした服ってのもこうしてみると面白えな」
「ちょ、はしたないっ」
「かわいいお尻なのです」
「お、モエには早速俺の魅力が分かったか」
「魅力いっぱいなのですっ! とっても可愛いのですっ!」
「はっはー! そんなに褒められるとさすがに悪い気もしねえなぁ」
「むむ、わたしの子どものころのが可愛かったわよ?」
「へえ、今の俺よりも可愛いってーともはや天地がひっくり返るレベルだぜ?」
「天地がひっくり返る可愛さ見てみたいのです!」
「えっとね……確かこの辺に……あったわ! 昔に描いてもらったやつ!」
「どれどれ……なるほど、これは」
「髪の毛がくるんくるんなのです」
「それはそうだけどっ、もっとあるでしょ、ほらっ!」
「まあ、なかなかに……」
「なによ」
「ふたりともそっくりなのですっ」
「──エルフだからかな?」
「まあ、そうだろうな」