クサいい話 ※イラストあり
淡い水色の髪の毛を2つの三つ編みにしたモエ。
チョコレート色のローブと、インナーは動きやすいワイシャツとズボン、ブーツ姿に鉄球を持っている。
エルフのフィナは長い金髪をアップにまとめて端的に言うと美しい。
けれどあどけなさの残るその顔は見るものを安心させるだろう。
見た目だけであれば。
エルフの正装か何かだろうか、青を基調とした長袖長ズボンはピシッとしていて、白いマントが出来る弓使いといった雰囲気を与える。
見た目だけは。
「じゃあ自己紹介ね。モエはモエなのです」
「それだけ⁉︎ モエちゃんていうのね。わたしはフィナよ。弓使い(仮)のフィナ」
「フィナ、さんは今何か(仮)みたいなのが見えたのです」
「気のせいよ。そんなの見えたらおかしいわよ」
「そ、そうなのです。フィナさんもパーティ探しですか?」
「まあ、そんなところね。ここまで一緒にきたパーティがいたんだけど、訳あって別れてしまってね……」
容姿端麗なフィナが視線を斜め下に落として儚げな感じを出せば男たちは簡単に落ちるだろう。
しかしこのエルフもモエと同じくプラカードを持っていたのだ。
「モエはいらないって言われて今はひとりなのですよ。だからパーティを探しているのです」
「ええっ? この階層で魔法使いがいらないって、なに? 魔法使い5人のパーティだったとか?」
「そんな偏りすぎなパーティは結成されていないのです。単にモエが魔法を使えないからなのですよ」
「魔法が使えない魔法使い……。あ、エールひとつくださーい」
「モエも欲しいのですよ。ふたつでお願いするのですよー。──なのでモエは鉄球使いでやってきたのですが」
「“なので”で繋がるのか理解出来ないけれど、そうなのね」
「フィナさんは、その……パーティの人たちとは、もう──」
まるでメンバーが全滅でもしたかのようなお通夜みたいな雰囲気を出していたフィナ。
しかし当然ながらそういうわけではない。
「あの、さ。笑わないで聞いてくれる? ていうかわたしも笑ってないから笑わない約束ね」
「分かったのです」
「わたし……実は弓が超へたくそなんだよね」
「ぷっ! エルフなのに、ゆ、弓が使えないのですか? ぷぷーっ」
「ああっ⁉︎ ひどいっ! だから笑わないでって言ったのに、約束したのにっ」
早速亀裂が入りそうなふたりの仲を取り持ったのは店員の持ってきたエールだ。
ヤケクソになったフィナが浴びるように飲み始めて、モエもそれに付き合った。
「だからぁ、わたしは、パーティをクビになってぇ──」
「モエにはわかるのですよ。モエも魔法使いなのに魔法が苦手なんてぇ」
酒をかっくらいながら管を巻く底辺の傷の舐め合いの場に入っていく人などいない。
そのうえこのふたりは見た目だけはいいもののパーティにとっては地雷であると知られるばかりだ。
「ねえ、もういっそモエちゃんとわたしで組まない?」
「モエもちょうどそう言おうと思っていたところなのですよ」
ベロベロに酔ったフィナとモエが交わした握手は周りの人達からは「地雷コンビ」と認識され、二重に三重に見える視界にお互いの真っ赤な顔と酒臭い呼気を間近で感じたふたりは握手した手に派手にゲロをぶちまけた。
こうして生まれたコンビは周りから改めて「地雷ゲロコンビ」と認識され、遠巻きに見ていた人の言うところには、“ゲロをぶちまけても離さなかった握手には感動したぜ。臭くて誰も近寄らなかったけどよ”というクサい美談として冒険者仲間たちに伝わっていった。
「ゆゆゆ、弓が下手って言ってもねっ、別に不器用ってことでもないのよっ! 料理も出来るし洗濯だって……」
「わかってるのですよ。モエも魔法は苦手ですけど鉄球は得意なのです」
「それと同じにされるのは……」
「え?」
「ま、まあとにかくっ、お互いに特技はあるってことよね!」
「なのですっ。モエは鉄球で魔物なんていちころなのです! フィナさんは料理で……え」
「ん?」
「フィナさんとパーティ組んでも戦うのはモエだけ……なのです。それはとても困るのです……フィナさん、今回は縁がなかったということで──」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 何も戦う手段がないなんて言ってないじゃないの。わたしはこう見えて剣の腕前はそこそこのもんよ?」
「なるほどなのです」
「だから、お互いに本職とはちょーっと違う、そんなコンビで──」
「お姉さんこのお酒おかわりなのですっ!」
「あ、わたしも。あの赤ーいお酒がいいっ」
「ふふふ、フィナさんもいける口なのです」
「そういうモエこそ、あどけない顔して」
「ふふふふふ」
「ふへへへへ」