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生まれたのですぅ

「ここは──」


 全体的に緑色の優しい光に満たされた空間。


 その広さは直径で10mほどの円形で、モエがいつの間にか立っているここはその中心にある祭壇と呼ばれるその壇上である。


「1階層……?帰って来たのです?」


 辺りを見渡し少しふらついたが、とりあえずは降りてみようと段差を確かめるために足元を見たモエはそこにいる子どもに気づいた。


「あなたは、生まれたばかりの子なのです?」


 寝ているようだが、何も身につけていない裸の女の子はそれでも赤ちゃんというようなサイズではない。


「魔法の瓶もあるのです。じゃあやっぱりここで生まれたばかりなのですね。あれ?瓶がもうひとつ?これは──モエの?」


 モエはとりあえず寝ている女の子と瓶を2つ抱えてそろそろと祭壇を降りていく。


 その間にも足元が少し安定しない気がするが何とか階段を降り切ったモエ。


「モエっ!」


 祭壇を降りたばかりのモエを呼び止める声が頭の上から聞こえてきてモエは振り返る。


「フィナさんっ」


 壇上からモエに声をかけたのはエルフのフィナだ。


「あんた何先に決めて勝手に行ってんのよっ!モエが“世界”に行かないならわたしもこっちに決まってるじゃないのっ」


 ちょっと怒っている風を装うフィナだが、その顔は照れ隠しをしても隠せずに笑みが溢れている。


「あっ、フィナさんっ、そこに魔法の瓶が落ちてないですか?」


「ん?あー、本当。これは──あれ?この感じはわたしの?」


「やっぱりなのです。きっとモエたちはここからやり直しということなのですよ」


 祭壇には3人しかいない。


 いや、3人もいるというのが正確である。


 通常は生まれた赤子の泣き声を聞いて、外にいる誰かが迎えにくるのだが、人の声がする程度では祭壇に新しい命が生まれたとは思われない。


 なのでこの3人の邪魔をする人は誰もいない。


「モエ?まあ、モエだよね。その子どもは?」


「モエはモエなのですよ?この子はモエが来た時には足元にいて──」


 2人の会話に目を覚ましたのか、丸い目を開けて子どもがモエとフィナを見る。


「あれ?この子はエルフじゃない?エルフの女の子」


「ん?本当なのです。尖った耳と、綺麗な金髪はフィナさんみたいなのです」


 子どもは確かにフィナに似ているが、エルフってみんなこんなもんよと言うフィナに深くは追求しないモエ。


「あん?フィナと、モエ?か。ここは一体どこだ?」


 女の子の声であまり上品とは言えない言葉遣いを披露したエルフっ子。


「苦しい、チチがでけえ。降ろしてくれ。よく分からんが立てそうだからよ」


 呆気に取られるフィナとモエだが、言われるがままに床におろすモエ。


「おい、これは何の冗談だ?俺は一体……お前らいつのまにそんなにデカくなった?」


 床に下ろせば見上げてそんな事を言うエルフっ子。


「ねえ、この子の喋り方、どこかで聞いたことあるよね?」


「な、なのですぅ。そんな事ってあるのですかぁ」


 フィナは自分の想定が信じられず、モエは今にも泣きそうだ。


「あ?ていうか俺はたしか潰されて……この身体……おい、なんにしろ俺のちんちんはどこにいった?っておい!」


「良かったのですぅ〜っ。おじさんは生きていたのですぅ!」


 姿かたちが変わってはいるが、この汚い話し方はあのグールのおじさんでしかない。


 思えば先に落としたグールの腕をまだ見つけていなかった。


「チチが!でけえっ!苦しいから離れろっ!」


「いやなのですぅ、良かったのですぅ!」


「だあーっ!フィナ!状況を説明してくれ!」


「はあ……頭痛い」


 なんにせよモエは嬉しくてたまらず、グールだったはずのおじさんは生きているし、フィナも無事なのだが、情報の整理に頭が追いつかずフィナはため息をついて愚痴った。


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