表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/151

なのですっ

「んひゃぁんっ」

「なのですっ!」


 フィナとモエの2人は牛の脚に追いかけ回されながら逃げ惑い、どうにか壁に開いた穴へと転がり込むことに成功した。


「怖かったあー。ていうかモエは“なのですっ”って叫ぶの?」

「えぇ?さすがにそんなことはないのですよぉ」

(いや、言ってたし)


「まあ──それよりもここは」


 立ち上がったフィナはそこがまたも巨大な空間で円の外周をぐるりと囲む幅3mほどの通路に転がり込んだことを知る。


「てっきりまた真っ直ぐな通路かと思ったんだけど」

「おっきな穴なのですよ」


 モエも立ち上がり、自分たちの立つ円状の通路の内側が何もない空洞であることを確認する。


 穴の手前にはスカスカの柵が張り巡らされているだけだ。


「もう少し勢いよく入ったら落ちてたかもね」

「なのですっ⁉︎」

「──今のはわざとね」


 大きな牛から逃れたことで少しの余裕が出来たのだろう、モエも「てへへ」と笑ってフィナは呆れながらも同様に笑ってみせた。


「あっ、フィナさんっ。あれを見てくださいなのです」

「んー? あれは……あの青いカケラは」


 通路の直径は大体200mくらいだろうかと推測するフィナだが、通路を囲む壁はその高さがどれほどあるのか全く予想出来ない。


 上が見通せないからである。


 そんな天井があるのかすら分からない上空からひとつの青い光がゆっくりと円の中心、目の高さまでおりてきたのだ。


「カケラなのです? 綺麗なまん丸なのですよ」

「本当ね。グールと見た時は欠けたような、割れたような何かだったのに」


 フィナはその手にグールの腕を握ったままだ。


「それになんだか大きいわね──ってなんか下から来るっ!」

「なのですっ!」


 ゴゴゴゴ……と豪快な音を鳴らして穴の中央にせり上がってきたのは円形のステージだ。


 通路の内側にすっぽりとハマるサイズのそれはすり鉢状になっていて沢山の穴が空いている。


「なに、これ」

「青い球がっ!」


 フィナとモエが疑問に思っているうちに青のカケラだったと思しき球体がステージにゆっくりと舞い降りてきたかと思うと、着地する寸前に弾かれたように横に飛んでステージをぐるぐると回り始める。


「なに、なんなのっ⁉︎ 一体何が起こってるのよっ!」

「スピードがだんだん遅くなってきたのです……あっ」


 2人が見守る中で球はその速度を緩めていくにつれて中心へとその軌道を移していく。


 それは穴のひとつに引っかかってさらに不規則な回転になり、縦に横にと振れていく。


「あっ、落ちた」

「もう少しで真ん中だったのに」


 中心まで到達すればそこには3つしか穴がない。


 そこに行くまでに青の球は穴のひとつに飲まれて消えてしまった。


「でもまだ音はするのよね」

「なのです。まるでまだ回ってるみたいなのです」


 そしてその音もしなくなったかと思うと、さらに遠く下の方から同じ音が聞こえてくる。




 どれだけ経っただろうか。


 遠くに聞こえる音にただ耳をすませるばかりの2人はまたしても轟音を響かせてステージが下がっていくのを「はぁ〜っ」と見送っただけであった。


「ねえ、もしかして今のがグールの言ってた──」

「クルーンなのですっ⁉︎」


 この塔に生きる者たちが生まれる前に通過する儀礼。


 回転する球と無数の穴。


 そしてその先にはたしか──


「「──そこには世界に通じる穴があるっ!」」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ