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そそそ、そんなところ困るのですぅ

 モエたちは見事に水中に落下した。


 落下したはずなのだが、水の中に入った感触も感覚もなく、息苦しささえないし視界もほぼない。


(ああ、これが自分を保てなくなるってこと、なのね)


 無感覚な状態にまるで水に溶けたかのような錯覚を覚えるフィナ。


 このまま死ぬのだと思い目を閉じて息をすると匂いがした。


 何もない空間にある匂いのもとは目の前にあるらしく、なんとなく、なんとなくで舐めてみた。


「ひゃんっ⁉︎」


 その驚いた声に呼応したのかフィナの身体に感覚が戻る。


 視界も取り戻すと目の前には首筋を舐められてプルプルするモエの顔がある。


「あ、ごめん……でも美味しいよ?」


 気づかなかったとはいえモエをペロペロしてしまったフィナの謎のフォローの言葉を最後に2人は突如として訪れた“下からの圧力”を受けて“水面へと降り立った”。


「何、いまの。訳がわかんないよ」

「ととと、飛び出るかと思ったのです」


 確かに2人は水中のどこかは分からないにせよ、もの凄い勢いで上方に押し上げられて水面に出たはずなのに、当たり前に水面に立っている。


「ねえ、モエ。あれなんだと思う?」


 そんな謎現象に見舞われた2人だが、フィナが目にしたそれを信じられずにモエの意見を誘う。


「なんなのですかあれは。まるで牛さんのおしりみたいなのですよ」

「やっぱりそうよねっ⁉︎ 走るよっ、モエっ!」


 謎現象の余韻に浸る間もない。


 モエの手を取り再び走り出したフィナ。


「あれって、どうみてもあの牛じゃないのさっ! ここはっ、ここはきっと──」


 あの牛は上半身しか出ていなかった。


 湖面に見えていた半分と見えていない半分。


 その半分があれなら湖には厚みが無かったことになる。


 恐らくはその辺りが謎現象の答えでもあるのだろうが、そんな事を考えている余裕はない。


「あの牛の住んでるところっ! つまりは!」

「神様のおうち?」

「あんた自分であいつは神様なんかじゃないって言ったじゃないのっ!」

「はっ! 言ったのですっ」


 そんな事を言いながら走る2人の背後で地面が揺れる。


 湖面と思っている足元は波立つこともなく、ただただ地揺れが続き、牛がその身体を引き抜いて現れた。


「ぎゃあぁっ! やっぱりっ」

「あの牛さんっ、今度こそっ」

「やめてよねっ! ここは逃げの一択よ! さっきとは違うここは壁に、あそこの壁にっ!」


 フィナはさっきから一直線にその壁の穴に向かっている。


 それが何なのかは分からないにせよ、その小さな穴に巨大な牛の入ってくる余地はないのだ。


『行かせぬ、その先へは行かせぬ』


 フィナたちを見つけた牛は赤い瞳を滾らせて脚を踏み鳴らして潰しにくる。


「脚がひぃ、ふぅ、みぃ──たくさんあるのですっ!」

「もとからじゃないのっ!」


 上半身で3対、下半身でも3対。


 そして今回は向こうも自在に動ける。


「んぎゃっ!」

「ひゃんっ」

「ひえっ」

「いやあぁぁっ」

「ぎゃあーっ」


 踏まれかけては叫んで走って踏まれかける。


 そんな逃走劇の果てに2人はギリギリの“演出”で壁の向こうへと送り出された。


『──イレギュラーだが、それもよかろう』


 2人を追いやって、赤い瞳は静かに閉ざされた。


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