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怒りの炎

「モエっ! よく死ななかったわね! でも呆けてる暇はないわよおおお」


 フィナに腕を掴まれて訳も分からないままに走らされるモエ。


「……あっ」


 少し離れればその黒い壁が牛の脚の一本だと分かる。


 つまりグールの彼は踏み潰されたのだとも。


 フィナの風の精霊のチカラを借りたダッシュは速い。


 それでも巨大な牛が一歩を踏み出せば途端に追いつかれて追い越されてしまう。


「なんでっ、なんでおじさんをっ……!」


 やっとそれだけ言ったモエの視線はしっかりと牛を捉えて睨みつけている。


『余興よ。誰もこの塔を攻略出来ぬからたまにこうして屍人で遊んでいる。ほれ、見よ』


 ザッと牛が砂を蹴り上げればグールの彼だったものが風に巻き上げられて散り散りになって消えていく。


『100年越しの絶望を抱えた魂は新たに憎悪を携えた魔物となって生まれることだろう』


 グールの彼が次に通るクルーンの振り分けでは魔物以外の穴は風で遮られているのかも知れない。


「魔物にっ⁉︎ イヤよっ、わたしは!」


 前を塞がれたフィナは何もない方を探して走り続ける。


「おじさんは、おじさんは……」


 この塔の仕組みを知りその枠組みから抜け出したかった彼は魔物となって今度は倒される側になるのだ。


『それで、なぜグールでもない生きている者がここにいる』


 ここには死者しか存在しないということだろう。


 だけどこの2人は生きているのだ。


 牛にとっても想定外なのだろう。


『風に呑まれるか、踏み潰されるか好きな方を選ぶがよい』


 そう言っている間にも巨大な脚は2人を踏みつけんと振り下ろされ続けている。


「ぎゃあーっ! 死ぬっ! 死ぬからやめてえええ」

「……」


 泣き叫びながらも走るフィナとは対照的にモエは黙り込んでいる。


『死ぬ方を選ぶと、な』

「違うっ、違うのよっ! わたしは死にたくないい」

『なら風に巻き込まれて魔物となればよい』

「それはもっといやああっ!」


 その場合も一度死ぬのだ。


 死んだ上で魔物しか選択肢がないなら正解ではないのだろう。


『なら、死ね』


 振り下ろされた脚はフィナの行く手を阻み地面に深く突き刺さる。


「ぎゃあーっ!」


 すんでのところで踏みとどまり潰されることを避けたフィナだが、驚きの余りに腰が抜けて立てなくなる。


「もう、だめよおお」




「──ファイア」


 諦めて泣き始めたフィナの上方に赤い液体が現れる。


 モエのみんなのファイアとは違う赤い水。


 いつもそのまま地面に落ちて染みていくだけの液体。


 だけど、今回は違う。


「あなたは決して──神様なんかじゃないのですっ!」


 鉄球が。


 赤い水を撃ち抜いてそのまま牛の脚へと激突する。


 赤い水を受けて真っ赤に燃える鉄球が轟音とともに脚にその炎を広げて物理と魔法の合わさったダメージを与えた。


「おじさんはっ! 外に出たかっただけなのにっ!」


 グールの彼は希望を胸にただただ生き続けてきた。


 その約束の日の訪れを心から喜んでいた。


 短い付き合いでグールの彼との間には決して友好や仲間意識なんてものも芽生えてなかったかも知れない。


 だがモエにとっては大事な仲間だったのだろう。


 怒れるモエの今できる何かの組み合わせが固有スキルの“スライム魔法”の使い方を体現させた瞬間である。


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