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いよいよ解放されるんだっ

「なあ、お前たちは生まれた時のことを覚えているか?」

「そんなの……覚えてないわよって答えたでしょ」

「モエもなのです」


 3人はまだ湖のそばをぐるぐるとゆっくりだが歩き続けている。

 

 グールの彼はそういうモンスターだから疲れもないが、2人はたまに座って一周してきた彼と合流してみたりしている。


「始まりはよ──ぐるぐると回るでっかいクルーンだった」

「クルーン?」

「そう。俺は一個の丸い球でな。こんな皿みてえなのにたくさんの穴があいてるんだがその周りをぐるぐる回ってよ」

「いまのおじさんみたいに? なのです」


 ふっと笑うグール。


「まあ、この時は脚もねえんだが。そんでよ、そのひとつに落ちて、次もおんなじクルーンで……そういうのを結構な回数過ぎた時に今度は一個だけ光る穴があるクルーンにたどり着いてな。きっとそこに入ればいい事あるんじゃねえかと思うんだけど、そこには入れないんだ」

「まあ脚もなくて転がるだけの球ならもう運しかないよね?」


 グールの言っていることは分からないが語るグールはなんだか顔がカクカクして鼻が尖ったみたいに見える、気がする。


「いや、よ。穴から風が出ててさ、俺を拒絶して結局普通の穴に落ちたと思ったら──生まれていたんだ」


 いよいよグールの絵のタッチがフィナたちとは違って見えたがどうやら気のせいだったようだ。


「きっとあの穴は世界に繋がっていたんだって今は思ってる。そして違う穴だったから俺は塔に生まれたんだって」


 フィナとモエには全く分からない話である。


 しかしグールの話に意識を巡らせる時間も終わりのようだ。


 湖に波紋が広がりやがてズズズと盛り上がっていく。


「神様のお出ましだ」


 グオオオオオオオオオと雄叫びをあげて中から巨大な黒い牛が現れる。


 天井にまで届きそうな牛には大きなツノがあり、振り上げた前脚は3対もある。


 ギロっとグールを、フィナとモエをまとめて見下ろすその目は赤く光っている。


「ようっ、神様よ。今日で約束の100年だっ! これで俺たちは解放されるんだよなっ⁉︎」


 自称神様の牛はその目をぐるぐると回して何か思案しているかのようだ。


 やがてまた目を向けた神様は


『よかろう。これにてこの階層のクリアを認めて解放してくれる』

「よっしゃ、やったぜ。やったんだぜ俺たちはっ!」


 ズズ……と階層全体が震動する。


 風が砂原を撫でていく。


 湖が波打ち大気が震える。


「おじさん。球は穴を通ってどうなるのです?」

「あん? あれは……そうだな種族や性別、スキルだとかなんだとかで色々分けられてたはずだ」

「モエの魔法もそんなのです?」

「あん? あー、例の固有魔法な。さっきのレンガを巻き込んだやつみてえにスライムでも巻き込んだんじゃねえのか?」

「そ、それは考えてなかったのです」


 これでこの塔から解放されるにしても聞けるなら聞いておきたかった。


 これまで魔法使いとして活動してきた自分を悩ませてきたものの正体。


 なるほどとうつむき手を打って感心するモエの顔を突風が撫でる。


「おじさん、ありがとうなのですよっ」


 しかしモエが顔をあげて再びグールの方を見た時、そこには大きな黒い壁が聳え立っているのみで、壁と地面の境目には赤い液体が滲み出ていた。


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