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鉄球で一網打尽ではダメですか?

 [モエ 魔法使い レベル28]


 たったそれだけを書いたプラカードを手にモエはギルドで立ち尽くしている。


 冒険者ギルドのメンバー募集掲示板には基本的に張り紙でパーティメンバーの募集がされている。


 なのでそれに応募すればギルド経由で巡り合わせもあるのだが、募集する側もたいていは条件がある。


 レベルだとか、何らかのスキルを持っているだとか。


 そして魔法使いであるモエに求められるのは当然だが魔法である。


 先に言われたように魔法には範囲攻撃など求められる要素が多い。


 とはいえモエほどのレベルにでもなれば当たり前に習得しているはずで、決して高いハードルでもない。


 それでもモエは応募している。ギルドの受付までは。


「あの、モエさん。その……また来てくれるのはいいんですけど、魔法は使えないんですよね?」

「はい。で、でも戦えるのですよ。“コレ”で」


 ジャラ……と硬質な音を立てる鎖の先には人の頭よりも大きい鉄球が床にかすかな凹みを作って鎮座している。


「魔法使い──に鉄球、ですもんね。でも求められているのは火の魔法とか、風の魔法とかそういうので小物を一網打尽っ、みたいなのばかりなんですよ。モエさんはそれが出来ない、と」

「鉄球で一網打尽には出来るのです」


 そんな問答を何回か繰り返してモエは応募することを諦めてここに立っている。


 ジョブを変えるという選択肢がないわけではない。けれどモエはそれだけはしない。


「おじいちゃん、モエはそれでも頑張るのですよ」


 モエの祖父は剣闘士というゴリゴリの筋肉で敵を蹴散らすタイプの冒険者であった。


 モエは優しい祖父が好きで、モエのステータスが魔法使い適性であったことを祖父はモエ以上に喜び祝い、そして語ってくれた。


『魔法はいいぞ。ワシなんかが手も届かない大鷲を撃ち落として、大地を埋め尽くす魔物を蹂躙するんだ。ワシには魔法の適性が全くなかったからのう。モエにはそんな凄い魔法使いになって欲しいものじゃ』


 祖父はそうモエに話してみせて、時折涙も流したりしていた。


 モエはそんな祖父と約束したのだ。


「おじいちゃんの代わりにすごいまほうつかいになる」と。


 祖父はかつて恋した魔法使いに「ごめんなさい、筋肉よりは魔力に惹かれるのよね、わたし」などと言われて本命の女の子にフラれ、魔法が使えない自分を呪い、魔法にこれ以上なく憧れることになった過去の話に入ることなく、孫の純粋な言葉を受け止め「ありがとう」と頭を撫でた。




「おじいちゃんに凄い魔法を見せてあげられるようになるのですよ」


 モエは諦めない。


 おじいちゃんが涙して語った魔法使いの話はモエに諦めない強い心を育ませていた。


 そんな決意を胸に拳を握り締めるモエとは掲示板を挟んで反対側にプラカードを手にため息をつくエルフがいた。


 [フィナ 弓使い レベル29]


 ふたりは互いに目が合うとそれぞれのプラカードを見て微笑み固い握手をした。


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