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こんなとこから出て来たら裂けちゃうわよ

「ここは始まりの場所って俺たちは呼んでいる」

「始まりの、なのです?」

「わたしたちからすれば終わりなんだけどね」


 男を先頭にモエとフィナはついて歩く。


「俺たちにとっては、だな。いや、お前たちもいずれはそうなったんだろうが」

「どういうこと?」


 フィナの問いかけに男は答えない。


 目的地がすぐそこだから。


「着いたぜ」


 そこは真っ平らな砂原の中で大きく窪んだ地でその中程には青く輝く湖がある。


 その湖は不思議と湖面に光の粒を吐き出している。


「綺麗なのですっ! あそこに行くのですか?」

「ああ、だが近づいても水には触れるな。触れれば──」


 フィナが息を呑む。


「身体を保てなくなる」




「お帰り」「お帰り」「お帰り」「お帰り」


 湖の周辺は小さなコミュニティを形成していて、そこに住まう住人は男と同じ見た目をしている。


「おじさんがぁ、いっぱいなのですっ!」

「うあぁ、なんで嬉しそうに言えるのよ、あんたは」


 グールという魔物の見た目がそうなのだろう。


 目玉を無くさずにいる個体は半分くらいか。


「俺たちはずっとここにいる。ここで逃げ続けている」

「なにから、なのです?」

「この──塔から」




「お前たちは──生まれた時のことを覚えているか?」


 どこに向かっているのか、とフィナが聞いたが「俺たちグールは徘徊するもんだろ」という茶化した返事しかされずに2人もそれに付き従っている。


 実のところそれは嘘でも冗談でもなく、そうしていないと彼らは生きることが出来ないのである。


「そんなの覚えてるわけないでしょ」

「モエもなのですぅ」

「だろうな。じゃあお前たちがどうやって生まれて、生きてきたか、は?」


 そんな質問に何の意味があるのか。


 しかしただ歩くというのも退屈なので会話は続く。


「みんな知ってること、でしょ? 両親の愛の営みの果てに結晶化された魔力が塔の一階の祭壇に飛ばされてわたしたちは生まれるのよ」


 産まれるではなく生まれる。


「そうなのですっ。その時に神様からスキルとステータス、魔法の瓶もプレゼントされるのですよっ!」


 フィナもモエも至って真面目である。


「──だな。けど、大昔は俺たちはそうじゃなかった、らしいぜ。みんな等しくお母さんの股から出てくるんだ」

「なにそれ、怪談かなにか? やめてよね怖いのは」


 母体の股を食い破り飛び出す赤子を想像してフィナは顔を青くする。




「お、ちょうど来た、な。あれを見ろ」


 グールの彼が指差す上空に青く輝くカケラを見た2人。


「綺麗ね。なんで宙に浮いてるのか謎だけど」

「持って帰りたいくらいなのですよ」

「あれが、お前らだ」


 空高く、湖の真上に位置するカケラ。


 水の柱が湖から細く伸びていきカケラを包んでいく。


「いま、なんて?」


 幻想的な光景は疑問に押しやられて頭に残らない。


 風が砂原を駆け抜けて砂とゴミを巻き上げる。


「あれがお前らと同じ生き物の種なんだよ」


 走り抜ける風はやがてカケラへとゴミを届けていき、水と混ざってその形を少し大きくして天井に吸い込まれた。


「今のガキはきっと固有スキル持ちになっただろうな。その内容は手からレンガみたいなブロックを生み出すとかかもな」

「ぜんっぜん分かんない。どういうことなの?」


 モエは今の光景をただ静かに眺めて忘れまいと記憶に刻んでいる。


「そっちのは何か引っかかるもんがあったようだが──」


 砂原を襲った風も立ち昇る水の柱も今はなく落ち着いている。


「あの風に攫われればああしてカケラとともに運ばれて頭上の祭壇で生まれることになる」


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