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わ、わたしの剣にこびりついてるぅ

 ぼごっ。


 巻き起こった風に表面をならされた砂の中から突き出る腕が1本、2本、3本、4本。


「ぶああっ! 生きてるっ、わたし生きてるよおお」

「なな、なんだったのですっ。死ぬかと、死ぬかと思ったのですよっ」


 どうやら2人とも無事で、今度はちゃんと服も身につけたままだ。


 5本、6本。


「ちょっとモエ、やっぱり怪談だったんじゃないのっ! もう〜見ちゃったわよ。呪われてたりしないよね?ね?」

「呪われてはないと思うのです。おじさんはただのおじさんで──」

「ほんとに? まあ、それでも警戒はするけど。何にしても生きててよかったよぉ」


 安堵のため息をついてから「だいたいわたしは最初からあんたの鉄球をくれたおじさんてのは──」と口が止まらないフィナの肩に背後から手が置かれる。


「それは、良かったな──」


 死臭を纏う灰色の肌。


 その窪んだ眼窩にあるべきものは無い。


 まともに目が合ったフィナは卒倒した。




「俺に出会った?」


 まだ顔の青いフィナは目を合わせまいと下を向いて座ったままだ。


 話をしているのは男とモエだけ。


「そんなはずはねえよ、こちとらここからいかに“出て行かずに済むか”しか考えてねえ」

「でもっ、でもモエは確かに……でもそういえばおめめは無くしてなかったのです」


 今更に記憶の男との決定的な違いに気づいてモエは勢いを失う。


 それどころか話し方も全然違うのだが。


「あー、それはあれだな。すまん、俺の考えが足りなかった」

「どう言うことなのです?」


 男は無い目で笑い見てもないフィナをビクッとさせる。


「確かなのは俺に、俺個人には出会ってないんだわ。でも俺たちのうちの1人には出会ったのかもしれない」


 モエもフィナも話が見えない。


 眼窩の奥も見えないがきっと笑っている。


「俺たちは魔物の“グール”だ」




「や、やっぱり魔物じゃないのっ! このっ! このっ!」

「やめろ、斬るのはやめっ──あっ」


 男の告白にキレたフィナががむしゃらに剣を振り回して、それを手で避けようとした男の腕が肘の先あたりで落とされた。


「あ、あ──」


 斬ったフィナが言葉を失う。


 悪いとか思っているわけじゃない。


 手応えが全くなく、斬ったと気づいたのはその腕が離れたのを見たから。


 血も流さずに残った方の断面から糸のようなモノが落ちた腕に絡みつき、細かな泡のようになって最後にはくっついたその一部始終を。


「俺たちは死ねない。なんなら首も落としてみ──か」


 躊躇いはない。


 のちに「だってそういう申し出がされ(かけ)たんだもの」とフィナは言ったそうだ。


 首と胴体は離れて転がり、しかし腕の時と同じようにして繋がって復活する。




「まさかそう言われて本当にやる奴がいるとは思わなかったぜ」


 首をぐりぐりとさすりながら男は今の感想を述べた。


 そんな男をまだ油断なく見るフィナは抜き身の剣を構えたままだ。


「ああ、そういう警戒心は失くすな。そっちのねえちゃんはこの嬢ちゃんの分まで警戒してやるこった」


 男はフィナにそう話して立ち上がる。


「なあ、もし俺を“旦那様”と呼ぶってんなら、ここから脱出させてやる──って言ったらどうする?」


 背を向けて立った男が肩越しに2人に問いかける。


 きっとモエ辺りはまごまごしながら従うのだろうと思って。


「旦那様っ!」

「お前……落としてきた警戒心を拾ってこい」


 即座に飛び出した言葉。


 真っ直ぐに伸びたその手にはもう剣は握られていなかった。


 フィナは生き延びたいのだ。


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