久しぶりなのですぅ
「ところでここはどこなんだろうね──」
どうにか装備の一切を失うことなく落ち着いた2人は広大な空間に佇んでいる。
「地下、なのです?」
「つまりは48階層の天井裏?」
言い換えたところで何も状況は変わらないが、恐らくはとモエが頷く。
ランタンの光は変わらずそこにある。2人分の光が照らす大地は白い砂丘。
硬くて、なのに重くも痛くもないレンガは砂に半分ほどを埋めたものや完全に飲み込まれたものも。
「なんだか同じ塔の中とは思えない」
暗い空間は果てなく広がり、落ちてきたはずの頭上には何かがあった痕跡もない。
「人──なのです」
辺りを見回すフィナとモエ。
モエが指差す先は今しがたフィナも見たばかりなのに、さっきは居なかったはず、なのに。
「あ、おじさんだぁっ! おぉーい」
ボサボサ頭にボロをまとった薄汚れた汚いガリガリの男。
元気に手を振るモエにおじさんも控えめに手を振る。
「おじさんってモエに鉄球をくれた?」
フィナな目を細めてその顔を窺おうとするがまだ遠くて判然としない。
手を振りながら歩くモエに、「他に手がかりもない中で知り合いとは幸先がいいというのか」とフィナもついていく。
おじさんはこんなところで栄養失調にでもなっているのだろうか。
足取りは非常にあやしくて時折転びそうになるたびにモエが「危ないっ」とハラハラして駆け足になる。
走るモエにふふっと笑いフィナも足を速める。
おじさんも少し急ぐようで少しずつその距離は縮まっていく。
お互いにあと30mくらいのところでモエが「ぐえっ」という声とともに急に立ち止まった。
後ろから思いっきり引っ張られて服で喉が締まったのだ。
「な、なにをするのです、フィナさんっ」
「何もクソもないわよっ! 走るわよっ──」
モエの手を取りおじさんとは逆方向に走るフィナ。
「ど、どうしたのですっ⁉︎ あと少しなのにっ」
フィナは必死で走るがモエが訳が分からないと言って頑張らないから全然進まない。
「なんで、あれが人間なのよっ! よく見てよっ、顔──顔がないじゃないのよっ」
「え?」
振り返ったモエはすでにおじさんらしきものに捕まっていて、フィナも道連れに首を掴まれて押し倒された。
その場にはもう誰もいない。
風だけが砂を巻き上げて通り過ぎていった。