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だめよ、それは口したら──ああっ、もうっ!

「せいぜい1週間、てところね」


 フィナとモエはお互いの魔法の瓶の中身から食料を取り出してみて1日1食でいつまで保つかを計算して気が滅入っている。


「モエたちはもうお終いなのです……?」


 この塔で産まれた者たちは各階層のコミュニティで働いたり攻略に出かけたりとどこにいても神の塔攻略を目的としている。


 その中でも攻略組であるモエたち含む戦闘職は──いつ死んでもおかしくない。


 だからこそポワっとしたモエでさえ、この状況に死を予感している。


 旅のお終い。


 命の潰える地。


 フィナも口にはしたくない。


 パーティを追い出されて同じ境遇のモエと意気投合してこれからという所でとんだ災難だ。


 せめてこの階層の攻略組と出会えたらポータルを借りて帰還することも可能なのだが。


「それは希望的観測にしても程があるよね」


 誰も攻略していないこの階層に訪れる者はしばらく現れていないと聞く。


 出てくる魔物は分かっているのだ。


 空と地、そのふたつを攻略できる者でないとわざわざ訪れたりしない。


 特に地龍はその外殻の硬さをクリアするにはまだまだ情報が足りない。


 一戦交えて生きて帰る者が少ないためだ。


 2人は空に注意してゆっくりと進む。


 足音さえ立てるつもりはない。


 今のところにいても草一本生えていないのだから、延命をしたところでじきに終わるのが見えている。


 細く心許ない川の流れを遡る。


 その先に何かあるという確信があるわけではないけれど、流れた先こそこの細さであるが、元を辿ればまだマシでもしかしたら緑もあるかも知れない。


 視界の先まで赤茶色の景色を眺めながら歩いていく。


 そしてやがてそこにたどり着くのだ。




「隔壁……なのです」


 ここは塔の中。


 当たり前にフィールドの端が存在していてそこにはそそり立つ壁があるのは周知の事実。


 その壁から水がいくらか出てきてはいるものの生命の営みの気配はない。


「詰み、なのかな」


 2人はその場に座り込む。


 頭上には空があるが、あれもおそらくは壁と同じ物だろうと言われている。


 この塔の中でしか生きたことのない人々にはその真偽を確かめる術もない。


 2人は魔法の瓶の中に直接水を貯めてから出発する。


 あまり推奨されない貯水の仕方だが、これが生命線なのだ。


 中身が水浸しであろうがなんだろうが構わない。


 眠れぬ夜を過ごす。


 歩けども見えるのは岩場ばかり。


 空は飛竜たちのテリトリー。


 音を立てないように努める2人は次第に精神的にも参ってくる。


 当たり前に空を飛ぶ小物でさえ2人よりレベルが高いだろう。


 天敵から身を隠す小動物になったようなフィナとモエは四六時中その緊張感と隣り合わせなのだ。




「もう本当にここには岩しかないのね」


 すでに3日、昼夜問わず安全と見れば移動してきたわけだが、その間に食べられそうなものを見つけたりする事もなく、安全地帯といえる場所もなく彷徨っている。


「コミュニティに集まった少ない情報でもそう言われているけど、実際に体験すると絶望感が半端ないわね」

「少ない情報といえば、空の飛竜と地下の地龍の他に地上のパンサーっていうのもあったのです」


 モエの呟きにフィナは頭を抱えてしまった。


「口にはしたくなかったのよ。地龍の時と同じできっと──」


 そう、きっと期待に応えてくれるのだろう。


 朝日の昇るよりも少し前のまだ薄暗い世界に近づく四つ足の肉食獣。


 ネコ科を思わせる双眸が煌めきを放つ。




 走る。


 めちゃくちゃに走る。


 2人仲良くなんて事はない、縦にも横にもジグザグに駆け抜ける。


 そうでないとこの四つ足の肉食獣からはとてもじゃないが逃げられそうにない。


 足音なんてもう気にしてられない。


 時折迫る前脚に悲鳴をあげながら躱してそれでも脚は止めない。


「こっちなのですよっ」


 フィナの息が上がってきているのを見たモエが石を投げつけて囮になる。


 パンサーはモエに標的を定めて進路を変え走る。上手く引きつけたモエは親指を咥えて駆け抜ける。


「風よっ!」


 フィナの種族特性である風との親和性を用いた俊足がフィナとモエの2人を助けてくれる。


「フィナさんっ、すごいのです! 魔法が使えたのですね」

「これは厳密には違うのよ。エルフ族の加護が風の助けを借りるだけ。魔法なんてはっきりしたものじゃないのよっ」


 その時の状況に即した補助が期待できる程度の加護だと言うが、求める効果を出せるフィナが魔法に憧れるモエにとっては凄い人として映る。


 そんな話をしながらもどうにか撒こうと走る2人はやがて例の壁に突き当たって追い詰められる。


「忌々しい隔壁よね」


 脚を止めて振り返ったフィナたちにパンサーも軽く息を切らしながらにじり寄る。


 この獣は知っているのだ。


 狩るときこそが最も自身も危険なのだと。


 やがて跳びかかったパンサーを横に避けてフィナが斬りつけるがその皮膚は硬い。


「これが20近いレベル差っ⁉︎」


 正確には階層に対する適正レベルとの差であり、パンサーにレベルの概念はない。


 この階層に相応しい強さを有しているだけだ。

  

 そういった事実も踏まえて皆レベル差と一括りにしている。


「フィナさんっ! 避けてなのです!」


 声のした方。


 フィナはちらと見てすぐに横っ飛びに避ける。


 パンサーの時よりも大きな悲鳴と微かなお漏らしと共に地面を転がる。


「いっけえっ! なのです!」


 遠心力をたっぷり乗せた鉄球がパンサー目掛けて叩きつけられる。


 極めて軽い重さから回転させて徐々に、しかし早く重さを加えていき、MAX150kgになった鉄の塊がパンサーごと壁をぶち抜いた。


「えっ? 壁……壊せるの、それ?」


 試した人たちは数知れないがただの一例も成功した試しはない。


 しかしフィナの視線の先では胴体の半分と頭を隔壁と鉄球で挟んで潰したパンサーごと壁には大きな穴があいている。


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