ちゃんと酔いを醒さないからだ
「これでも剣一本でやってきたんだもの。さすがに10も下の階層でなら攻略自体は問題ないのよね」
フィナは数打ちのそれほど高値でもない普通のロングソードの手入れを済ませると荷物とまとめて魔法の瓶の中に収めた。
「薬草汁も出番はなかったのです」
字面は残念そうだが、その声は喜ばしそうでそれも当たり前のことである。
怪我という怪我がなかったということだ。
緑の液体の活躍の場を求めていた訳ではない。
堅実に攻略すること。それが叶ったのだ。
小さな樽が部屋のテーブルに取り出される。
手にした木のカップになみなみと注がれたのはこの階層で売れ行きNo. 1のビアだ。
酒場は出禁になっている2人の1人2杯程度のそんなささやかな祝杯。
「わたしたちだって、やれたんだもの」
「そうなのですよ。モエも、フィナさんも!」
それから2人はちびちびと飲みながら巨馬の攻略について振り返り、そして笑った。
攻略なんてものじゃない、力業。大して動く必要もなく鎖付き鉄球をぶつけるモエに、持ち前のスピードを活かしたフィナの剣。
デカいだけの馬ならそのゴリ押しで削り切れる。
「「MVPは、もちろん──」」
お互いの名を呼び、気持ちよく締めて心地よい眠りについた。
2人は明日から19階層へと向かう。
消耗品の補充も要らない。
確かな手応えがその手に残っているうちに。
床には追加された樽が5つほど空になって転がっているが。
「らからあ、ゅうきゅう階層」
「あー、少し水飲んでから行けよな?」
ポータル屋はいちいち口出しはしない。
言われればどこにだってボタンひとつだ。
けどろれつが怪しいゲロ女には少しばかりの心配をしてしまう。
「あ? どうしたんだ?」
「あー、パイセン。この2人なんですけど──」
トカゲのポータル屋の先輩のご登場だ。
もちろん同族でこちらは茶色い。
ちなみに元々の方は緑のだ。
「わたしはぁ、よおっ、じゅうきゅーかいそーで」
「そうなのです。モエたちはその前の階層を攻略したのですから」
2人ともまだ少し酒が残っているが、ポータルで飛べばアルコールくらいのデバフはどこかに飛んでいく。
ポータル屋もそれは知っているが聞き取れなかった後輩に代わり先輩は躊躇わない。
「あいあいさー。2人とも見た目によらず凄いんだな。まあ気をつけていきなよ」
「まっかせなさいっ! 必ずあっと言わせてみせるからっ!」
「そうなのです。モエたちにかかれば19階層くら──」
トカゲパイセンがカタカタっと入力し“GO!”と書かれたボタンをポチっと押された途端に2人は階層の旅に飛んだ。
「……おい、後輩よ。あいつら──前回はどこにいったのか知ってるか?」
「よく覚えてますよ。なんせ気合い入ってましたからね。2人でやるんだって18階層でさあ。シラフなら可愛らしいのに、あれが噂の地雷ゲロコンビとは」
「そう、だよな。──まあ、酔っ払いも自己責任、だよな」
呟き、去っていくトカゲパイセン。残されたディスプレイの表示には──
「げっ⁉︎ 49階層⁉︎」
そういう風に聞こえてしまったパイセンが送り出した先は“よんじゅうきゅう階層”──現時点での最高到達点である。




