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遊んでみただけなんて言えないのです

「こんなに硬いのにとっても軽いのは、もしかしたら中は空っぽなのかなと思って……なのです」


 焼けたレンガを手に持ち説明するモエの目は開いていない。なかなかのダメージを与えられたのだと満足し誇らしげなシュシュをポークは可愛いと思って見ている。


「空っぽ、ねえ。確かに思わなくはなかったことだが、だとしてそれが?」


 レンガというよりまるで箱。そんな物体をレンガと呼んでいるのは、見た目がまずそれなのと、フィナとモエが塔の隔壁を突き破った先で閉じ込められた通路の床や天井、壁を作っていたもので、地下階層にふたりとともに降ってきた話を聞いていたからだ。


「なので空っぽならモエのあいえ……スライム魔法を入れられるんじゃないかと思ったのです」

「あー、あのときのランタンみたいにね」


 勝ち誇る幼女エルフから不穏な空気を感じ取ったモエは咄嗟に言い方を変えて事なきを得る。


 辺りを見回っていたフィナとリハスもすでに戻ってきていた。というより魔物を警戒して歩いていたら拠点とした方向に見えていた焚き火の灯りが瞬く間に大きくなって消えたのだから何事かと慌てて帰って来たのだ。


 “神の塔”の隔壁の外にある通路で閉じ込められたときに、モエはランタンの中にライトの魔法を注いで閉じ込めたのが、数少ないモエの魔法が役に立った瞬間である。


「なんだそりゃ。初耳だぞ」

「んー、そうだっけ? スライム魔法のことは知ってるよね?」

「ああ、魔法が上手く発動しないで水たまりみてえになるってやつだろ?」


 モエがファイアと唱えて地面を赤い液体で濡らしたときにシュシュは大いに笑い転げたものだ。


「なのですっ。だからランタンの時みたいに入れ物に出来るのかなって思ったのです」


 そしてそれは成功したらしく、レンガに並々と入れたものや少しだけ入れたもの、ファイアではなくウォーターの魔法を入れたものといくつか分けて試したのだという。


 そしてそれぞれに魔法を行使した本人には感覚で分かったことをドミノでやってみせた。


「なんと、たっぷり入れたものは少しの衝撃で飛び出して、あんまり入れてないものはそばの魔力に反応して飛び出すのですっ──ぐはあっ」


 つまりドミノの終点にたっぷり入れた一個を配置して起爆。連鎖爆破させていった先で今度は水の魔法をたっぷり入れた一個と他が連鎖して鎮火させるというはた迷惑な実験だったらしい。


 得意げなモエの説明をうんうん頷いて聴いていたシュシュは再度の目突きでまたモエを地面に転がしたが、ちゃんとその意図は汲んでいた。


「つまり、これは魔法石だっていうのか」

「おいおい……失われた技術だぞ」


 シュシュの言葉にいち早く反応したのはリハスだ。フィナとポークは「なにそれ」と首を傾げている。


「昔は、それこそ俺も生まれていないほどの昔は道端の石ころに魔法を詰め込む技術があったらしい。階層攻略に詰まって以降は適した石ころが見つからなくなり見ることもなくなったとギルドの資料には書かれていたが」


 その石ころがたまに落ちている魔石と呼ばれる石ころに見えて石ころではないものだが“神の塔”に住むものたちは覚えていない。


 リハスの知る資料には魔法石は特定の適性を持つ冒険者により作られるとあったが、それがなんだったのかは記憶していないらしい。


「ただまあ“スライム魔法”なんてふざけた固有スキルじゃなかったはずだがな」

「ふざけた……」


 痛みに震えるモエが静かにショックを受けている。


「で、で。魔法石ってのは何がすごいの?」

「俺とポークは目の当たりにしたわけだが……つまりは──」

「魔法を持ち運び出来る」


 フィナの質問にシュシュとリハスが答える。勿体ぶったシュシュが発言を奪われたからとリハスに目突きをするがハエ叩きのようにあしらわれてかわされたので、すねに蹴りを入れる。


「持ち運びったって、なかなか携帯しにくい大きさよ?」

「魔法の瓶にでも入れりゃいいだろ」

「そんなにいくつも入れられないわ」


 詰めれば詰めるほどに攻略の最中に手にした拾得物を入れるスペースが無くなる。手に持って歩くには大きすぎるし、なにより衝撃で発動するというなら持ち歩きたくはない。


「……そこが俺も認めたくねえことではあるが、モエの機転のミラクルなとこなんだよ」

「どういうことよ?」


 いつもお騒がせなモエが自分の想定を上回った行動に口惜しさを滲ませるシュシュ。


「ポークは、このレンガを捨てていくのか?」

「え? 丸コゲなのはあれですけど水に濡れただけのものなら……」

「いつも回収してるもんな?」

「それは、レンガを出せるっていっても魔力を消費してますので。取り戻せば少しは回復もしますし」


 ポークはレンガをひとつ創り出すたびに微量だが魔力を使っており、いつも引きこもる小屋を建てるだけの数を生み出すのがポークの出来る最大量である。


「コゲたのがダメだってのは、次に使えないからか?」

「そうですね……というより汚いからですね。次に出す時には優先して出てくるので」


 一度作ったレンガの出し入れで済むなら消費魔力も抑えられコスパも良くなる。それでもポークとフィナが入れるほどのサイズは作れない。牛との遭遇戦で失った時には再度引きこもる事も出来ずに震えているだけだった。


 そう、ポークはレンガを創り出すことはもとより、そのレンガを回収し再利用出来る。


「つまり……モエ、いつまで転がってんだ? とりあえずこのレンガに魔法を詰めてみろ」

「うう……シュシュちゃんのせいなのですのにぃ……“ファイア”……がくっなのです」


 少しの愚痴と力尽きたアピールをするモエには構わず、シュシュは差し出したレンガの内側から赤く淡い光が漏れていることを確認するとポークに手渡す。


「それも、取り込めるわけだ」

「そうですね。そして取り出せもします」


 ポークの手のひらに一度消えたレンガは、改めてその手の上に現れる。再び現れたレンガは変わらず赤い光をその内側にたたえている。


「このことが今後活きてくるのは間違いないだろう。モエはそれを見越してやったんだろうな」

「そうなのですよ」

「違うらしい」

「がーん、なのです」


 力尽きたはずのモエが返事をしたが、その口調にはどこか嘘くささが漂っていたためにシュシュにバッサリと切られる。


「運用の仕方は考えるとして、ひとまず分かっていることはポークはもうレンガの家に引きこもれないことだな」

「そ、そんな……」

「だって優先して出てくるんだろ? そしたらポークの家はちょっとの衝撃で爆発するか水没するようなスリリングな牢獄になるぞ」

「なるほど、その通りに運用するとしても便利なだけではない、か」

「どどど、どうすればっ」


 魔法石を手軽に持ち運べる利便性はポークの守りを犠牲にするらしい。未だにレベルすらも上がらない豚の子は生きていける気がしない。


「まあ、そん時は守ってやるさ」

「シュシュさん……」

「フィナたちがな」

「前にも似たような事を言われた気がします……」


 それでも、前回のフィナの剣を犠牲にした本塁打量産用弾薬庫とは違う形で活躍できるかもしれないと、ポークはこの先の冒険が少し楽しみになって笑った。


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