第二十七話 Sランク冒険者
「気配は消していたのだが、よく気が付いたな」
部屋に入って来たのは、女だった。
金色の髪を後ろで縛り、緑色のドレス風の武道着を身に付けている。
「お生憎様、私は人より鼻が良くてね、物覚えが悪いとは言え、昨日の今日で忘れる匂いじゃないわよ」
部屋の中に入って来たのは、昨晩、私たちを襲撃したポニーテールの女、ライラだった。
先ほど感じた、ギルドカードの違和感。
それは、私とリバティのギルドカードに、ライラの名がパーティーメンバーに登録されていたからだ。
「獣人の鼻は良いと聞いていたが、大したものだ」
ライラは、そう言って私の対面に座る。
「・・・ギルマス、この女、何者よ」
「この方が冒険者ギルド総本部から派遣された、Sランク冒険者のライラさんだ」
Sランク冒険者。
それは、世界でも数えるほどしかいない存在であり。
単身で、国の脅威とも言えるSランクの魔獣を討伐できる戦闘能力を所持する。
曰く、1000の盗賊団を叩き潰した。
一国の騎士団を壊滅させた。
ドラゴンの群れを討伐した。
その他にも様々な話があるが、どれもこれも真相は定かではない眉唾物の話である。
何故なら、Sランク冒険者の活動、及び業績などは、冒険者ギルド総本部の上層部しか知れないトップシークレットとなっているからだ。
「彼女が、君たちと行動を共にする事になった」
「Sランク冒険者のライラだ、よろしく」
ライラは、メグから紅茶を受け取りながら軽く挨拶をすると、ギルドカードを見せる。
氏名『ライラ』、職業『武闘家』、そして、冒険者として最高峰のSランクのマーク。
本物か、それなら昨晩、リバティと戦りあって、手抜きの戦いと言ったのも嘘じゃなさそうね。
そのSランクが何で、リバティの実力を見るような真似をしてくれたのかしら?
「早い再会だな」
今まで黙っていたリバティが、ライラに声をかけた。
「近いうちに会うと言ったろう」
ライラは、そう言いながら、リバティと視線をかわす。
ああ”っ! なに色目使ってんだ、この女!
噛み殺すぞ!
「お知り合いでしたか?」
「昨日、挨拶をしてな」
リチャードの問いにライラは、そう言うと何かをテーブルに置いた。
それは、昨夜、襲われた際にリバティが叩き折った棍の残骸だった。
って言うか、この棍、今どこから出した?
「私の竜骨棍を折られたよ」
「・・・!? これが噂の」
リチャードが、息を呑む。
「りゅうこつこん? なによそれ?」
私の疑問に、リチャードが説明する。
竜骨棍。
それは、脅威度Sランクの魔獣グリーンドラゴンの骨で作られた棍である。
ドラゴンの骨は、『闘気』『魔力』と言った力の伝導率が高く、魔法の武器として高額で取引され一般にはまず出回らない。
噂では、彼女自身が討伐したグリーンドラゴンから作ったと言われており、彼女の強さの象徴とも言える代物である。
Sランク冒険者のライラが使えば、その強度は、高強度のオリハルコンや金剛石を砕くとも言われている・・・らしい。
ふ~ん、まぁ、討伐した魔獣の素材を使って、武具を作るってのはよくある話だけど。
ドラゴンの素材なんて、それだけで地方都市の予算くらいの金額するんじゃない?
この棍の残骸ですら、高額で取引できるわよ。
って言うか、そんなモノを叩き折ったリバティの拳がすげえぇ・・・。
「グリーンドラゴン・・・か、あんなもの、便宜上ドラゴンと言っているだけで、ただのデカい空飛ぶトカゲに過ぎんよ」
本物のドラゴンの足元にも及ばない。
ライラの呟きを、私の獣の耳が拾う。
グリーンドラゴンをトカゲ扱いね。
「ところで、話が勝手に進んでるけど、私はまだ、この依頼を受けるとも、この女をパーティーに受け入れるとも言ってないわよ」
「お、おい、嬢ちゃん」
「ギルマスは、黙っててくれる」
ギルマスは、まさか私が、Sランク冒険者に噛みつくとは思っていなかったらしい。
悪いわね、こちとら孤高の狼よ。
気に入らなければ、Sランク冒険者だろうが、王様だろうが噛みつくわ。
「ふふ、なるほど、報告にあった通り、中々の狂犬だな」
私は、ドンッとテーブルに手を置くと立ち上がり、グイッと身体を乗り出す。
「言ってくれるじゃない、大体、秘密結社だか何だか知らないけど、襲ってきたら私たちだけで、また返り討ちにしてやるわよ」
「ふむ、青薔薇団も噂程でもないらしい、お嬢ちゃん程度で返り討ちに出来るのだからな」
「・・・それ、私を馬鹿にしてる?」
「そう聞こえたか? 私は青薔薇団の実力が低いと言ったんだがな」
「変わらないわよ、何ならここで私の実力を見せてあげても良いのよ」
私の獣の眼光を、ライラは、何食わぬ顔で受け止める。
互いの視線がぶつかり合い、部屋の中の緊張感は高まっていく。
一触即発、ほんの僅かな刺激で互いが激突する。
リチャードもメグも、その重圧に動けずにいる・・・と。
ライラが、私から視線を外した。
余りにも自然な動きに、私は動けなかった。
「すまないが、紅茶のお代わりをもらえるかな?」
ライラが、固まっていたメグに声をかける。
「・・・・・・・・・はっ!? はい」
メグが慌てて紅茶を淹れなおすと、ライラにカップを手渡す。
「ありがとう」
ライラは、受け取ったカップに口を付ける。
「・・・・・・ふう、なんか気が抜けちゃったわね」
私はそう言って、ソファーに腰を落とす。
あれほど高まっていた緊張感が薄らいでいく。
リチャードもメグも、ホッと胸を撫で下ろした。
次の瞬間。
ドゴンッ!
テーブル越しに蹴り上げた私の脚と、テーブルの上に振り下ろされたライラの脚が激突した。
バキッ!
私とライラの蹴りに挟まれて、テーブルは、無残に砕け散る。
読まれた!?
「ふふ、間を外してからテーブルごと蹴り上げての奇襲か、喧嘩と言うモノを分かっているじゃない」
私の蹴りを片足で受け止めながら、ライラは皮肉っぽく微笑んで見せる。
しかも、手に持った紅茶は、零れもしていない。
こいつ、やってくれるじゃないのよっ!
私がライラに飛び掛かろうと席を蹴った瞬間、腕を掴まれた。
見れば、リバティが私の腕を掴んでいる。
「落ち着けシャオ、メグさんが驚いている」
リバティに言われて見てみれば、メグは腰を抜かし、リチャードは、どうしたモノかと困り顔をしている。
あちゃー、やってしまった。
「・・・はぁ~、ちょっと気が立ってただけなの、悪かったわよ」
私は、謝ると再びソファーに腰を落とす。
流石に感情的になり過ぎていたと反省。
「シャオ、この依頼、俺は受けようと思う」
「なんで?」
「何か事情がありそうだからな、シャオ、お前はどうする?」
正直な所、この依頼、かなり怪しい。
具体的に何処がとは分からないが、漠然としたキナ臭さを感じる。
まぁ、冒険者ギルド本部の言っている事も理解できる。
管理していたコアダンジョンを潰されて、犯罪組織の青薔薇団は雲隠れ。
唯一の手掛かりは、クリスたちと接触した私たちだけ。
しかも、クリスたちの事は、私は正確に情報を冒険者ギルドに出していない。
その為、藁にも縋る思いで、私たちに調査を依頼したのだろう。
しかも、Sランク冒険者を引っ張り出して来るほどの本気度だ。
でも、な~んか引っかかるのよね~。
特にこの、ライラのリバティへ向ける眼差し。
この女、何か別の目的があるようでならない。
だから、私の答えは。
「リバティが受けるなら、同じパーティーを組んでる私も受けるわよ」
私が依頼を断ったら、リバティとライラのパーティーで、私だけ除け者になるじゃない。
このライラって女には、要注意ね。
何が目的か、見極めてやるわ。
「ギルマス、そう言う訳だから、この依頼、受けてあげるわよ、あとテーブル代はその女から貰ってよね」
勢いで、テーブル破壊をライラに擦り付ける。
いや、私はテーブルを蹴り上げただけで、蹴り落としたライラが壊したんだから、私は悪くない。
「あ、あぁ、分かった、依頼は受理しておくよ」
よし、これでテーブル破壊は有耶無耶になった。
「話はまとまったな、では場所を変えようか」
そう言うと、ライラは席を立ち、部屋の出入り口へと向かって歩き出す。
「ちょっと、どこ行くって言うのよ」
「仲間同士、交流を深めるには、食事を共にするのが良いらしい、良い店を予約してるんだが・・・どうする?」
「・・・奢り?」
「ああ」
「・・・・・・・・・行く」
私は、ほんの一瞬考えてから席を蹴って、応接室を出たライラの後を追った。
この時、リバティは、私が『餌付けされてる』と思っていたらしい。
ほっとけ、ただ飯は喰える時に喰っておくに限るのよ。
私とリバティが応接室から出ると、部屋の中にはリチャードとメグが残される。
◇
「・・・ふう、寿命が縮んだよ」
リチャードは、疲れ果てた溜息をもらしてソファーに座り込む。
「あの三人、大丈夫でしょうか?」
「性格に難はあるが、実力は折り紙付きだ、問題あるまい・・・しかし」
リチャードとメグが部屋を見回す。
破壊されたテーブル、割れた皿や陶器のカップが散乱している。
「まるで嵐の様な連中だな」
「どちらかと言えば、餓えた野獣と言う感じですけどね」
リチャードとメグは、お互いの顔を見て苦笑いを浮かべた。
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