第十四話 対立
「それじゃ、ここにはもう何もないみたいだし、私たちは帰るわね」
そう言って、私が踵を返そうとすると。
「あっ、ちょっと待ってくださいシャオさん、帰る前に、あなたに見せたいモノがあるんですよ」
「んっ? 私に見せたいモノ?」
クリスは、そう言うと部屋の奥にある扉の前に移動する。
・・・? 何するつもり? そこはコアルームに続く扉。
そう思っていると、クリスがパチンッと指を鳴らした。
パキーーーーン!
何かが割れる音が、部屋の中に響く。
私には、魔法の知識なんか無い。
だけど今、彼が何をやったかは想像が付く。
この子、コアルームへの扉の封印を解いた!?
「どうです、凄いでしょ」
嘘でしょ!?
仮にも魔導師協会の魔導士が数十人がかりで張った結界を、こんな子供が解くなんて。
「流石に、これ程の封印を壊すのは、僕でも骨が折れますが、一時的に解除するのならこの通り、簡単ですよ」
悪びれる事無く、クリスが言い放つ。
そして、私はここで、彼らにある疑問を持った。
彼らは、冒険者なのか? っと。
私は、彼らをダンジョン探索に来た冒険者だと思っていたけど、もし、ダンジョンの入り口の結界も、今の様に封印を解いて、通行許可証を使わずに入ったのだとしたら?
「コアルームへの封印を解いて、何をするつもりなの?」
「言ったでしょ、ダンジョンコアを調べに来たと・・・ところで、何で僕があなたに名を名乗り、情報を教え、こんな秘密まで見せたと思います?」
「何よ、自慢したかったんじゃないの?」
「シャオさん、あなたを・・・ここから帰す気がないと言う事ですよ」
「それは、どう言う意味かな?」
「あなたを、僕のモノにすると言う意味ですよ」
クリスがそう言った瞬間、雰囲気が一変したかの様に部屋の中の空気が重くなる。
ヌオッ!?
私には、魔力と言うモノがどのようなモノなのか知識は無い。
だが、今この身にのしかかる圧力が、魔力によるモノだと肌で感じた。
クリスのその小さな身体から、子供とは思えない魔力が発せられ、その場を圧倒する。
「フウ、僕が戻ってくるまで、シャオさんと遊んでいてください」
「ああ、遊んでるよ」
「ノイン、そっちの黒髪の男ですが・・・目障りです、消してください」
「かしこまりました」
「それではシャオさん、僕の用事が終わるまでフウと遊んでいてください」
そう言うと、クリスは扉から奥の通路へと歩いて行く。
「ま、待てっ!」
私は咄嗟に、クリスの後を追おうと駆け出そうとした。
それを合図に、フウが動いた。
「話を聞いてなかったのか、遊んでやるって言ったろ!」
その動きに、私は一瞬、反応が遅れた。
気づいた時には、フウが私に飛び掛かっていた。
私との距離を、一足飛びで詰められる。
しまった! 間合いをはずされた!
フウの飛び蹴りが、目前に迫る。
躱せない!
私は、腕を上げガード体勢に入る。
フウの飛び蹴りをブロックした瞬間。
ドガッ!
重!? 腕のガードが跳ね上げられた!?
「タイガースラッーーシュ!」
フウの叫びと共に、空中でもう片方の脚が私に迫る。
二段蹴り!?
ゴッ!
フウの蹴りが、私の頬をとらえる。
「ごふっ!」
私は、蹴りの衝撃に、その場から大きく吹き飛び、床に倒れる。
口の中を切ったかのか、血の味が口の中に広がる。
ヤバイ、追撃が・・・来ない?
上半身を起こして見れば、フウは私を追撃することなく立っている。
どう言うつもり。
「立ちなワンちゃん、遊んでやるよ」
舐められた!!!
不意打ちが上手くいったからって、調子に乗りやがって。
この時点で、私の頭の中からクリスの存在は消し飛び、目の前のムカつく虎女をぶちのめす事に目標が変わった。
「いいよ、やってやろうじゃないの」
私は立ち上がると、口に溜まった血を吐き捨てた。
「吠えてないで、さっさとかかってきな」
手招きをして挑発的なフウを前に、私は両足を開き、両腕を下げたままの自然体に構える。
「はあぁっ!」
短い気合と共に、獣気が私の小さな身体を駆け巡る。
「なっ!? 獣気だとっ!?」
フウが驚きに息を呑む。
その隙を突き、私は獣の如き速さで近づくと、必殺の肘打ちを放つ。
「ちぃっ!」
その動きに反応し、フウは両腕と片足を上げ防御態勢を取った。
!? 反応が早い、このままだとブロックされる、それなら。
「てりゃっ!」
私は肘打ちが当たる直前に身を捻ると、ガードしていない脇腹に裏拳を叩き込む。
「ぐっ!?」
脇腹への攻撃で、フウのガードが下がる。
私は、裏拳を放った勢いのままハイキックを放つ。
「やあぁっ!」
バキィッ!
「ぐうぅ!」
私の蹴りがフウの頬を捉え、フウはもんどりを打って倒れる。
これで、さっきの不意打ち分はチャラね。
私はそこで、あえて追撃をせず、フウが起き上がるまで待つ。
「がはっ、て・・・てめえ・・・」
「立ちな小猫ちゃん、遊んであげるわよ」
私は、先程フウがしたように手招きをして挑発する。
「小犬ごときが、獣気を使えるとは思わなかったぜ、おかげで目が覚めた」
フウは立ち上がり、血の滲む唇を拭うと、構えた。
そして。
「はぁっ!」
気合と共にフウの身体から発せられるこの力は・・・獣気!?
「どうした? まさか獣気を使える獣人が自分だけだと思ったのか」
獣人だからと言って、誰でも獣気が使える訳じゃない。
自身の中に眠る獣を呼び覚ます感覚。
実感できるまでは、獣人でも理解できないモノであり、だからこそ獣気を使える者は、獣人の中でも少ない。
その数少ないであろう獣気の使い手が、虎族の中にいたとは。
「正直、驚いてるわ」
「その割には、顔が緩んでるぜ」
そう、フウの言う通り、私は喜んでいた。
まさか、国の外で、他の部族の獣気使いと戦う事が出来るなんてね。
「そう言うあんたこそ、顔が笑ってるわよ」
見ればフウの頬は上がり、口元からは牙を覗かせていた。
ほんと、獣人ってのは、戦うのが大好きなんだよね。
「へへ、遊びのつもりだったが、マジになっても良いか?」
「良いわよ、狼族の闘士、シャオが相手になるわ」
私は、ここでもう一度、あえて名乗る。
狼族の獣人として。
「虎族の闘士、フウ 虎族の闘技を持って、お前を倒す」
フウが虎族の獣人として答える。
互いに獣人の一族として名乗りを上げた。
ここから先は、言葉はいらない。
後は、拳で語り合うのみ。
「「 さあ、死合おうか!! 」」




