第十二話 最下層
意気揚々と、ボスルームに踏み込んだ部屋の中央にそいつは居た。
紫色の皮膚、巨大な爪、盛り上がった筋肉、剛毛の密生した下半身、背中から生える蝙蝠の様な翼。
オーガが出て来た時点で、それ以上に強いモンスターがいるとは、思ってたわよ。
でもまさか、悪魔がいるとは、思わないじゃない?
まあ、この異常事態のダンジョンのボスとしては、相応しかったのかもしれないけど。
もっとも、私は実物の悪魔を見た事が無いから、これが本当に悪魔なのかは、わからないけどね。
脅威度的には、確か脅威度Cランクの魔獣と同等かそれ以上の実力があったはず。
殺り合えば、面白い相手だったのかもしれないけど、こりゃダメだわ。
えっ? 何がダメかって? そりゃぁ死んでるからね。
何で死んでるのかが分かるのかだって? だってこいつ、首が地面に落ちてるんだもん。
首が斬り落とされ、残っている紫色の身体は、どす黒い血で染まっている。
通路で嗅いだ匂いの正体は、これか。
背中の翼は破れ、打撃痕と焼け焦げた跡、片腕の肘から先は無かった。
転がっている頭は、こめかみから後頭部に伸びる二本の角が、中ほどから折れている。
その表情は、驚きと戸惑いと恐怖が入り混じったような顔で、私を見上げていた。
人の恐怖や絶望を糧とする悪魔を、逆に恐怖の底に叩き落とした者たち。
部屋の反対側に、その三人組が居た。
私が部屋に入って来たのに気が付いたのか、その内の一人が声を上げながらこちらに歩いてくる。
「おいおい、どこぞの野良犬が迷い込んで来たぜ」
「ああ”っ!」
私は、怒気をはらんだ声を上げて歩み寄り、互いに部屋の中央で対面した。
私と同じ、女の獣人だった。
黄色い髪に、キリリとした黄色い目。
オレンジ色に黒の縞模様の獣の耳に、腰からは同じ縞模様の尻尾が垂れ下がり揺れている。
こいつは、虎族。
「誰が、野良犬だって」
「耳が悪いのかな? 耳掃除は良くした方が良いぜ、ワンちゃん」
「喧嘩売ってるのかな? 売ってるなら買ってあげるけど?」
「良いのかい? 私の喧嘩は高いよ、小犬ちゃんに払えるかな?」
むっかつくー!
「上等だよ」
私が虎女に飛び掛かろうとした時、背後から肩を掴まれた。
「落ち着けシャオ、すぐに頭に血が上るのが、お前の悪い癖だ」
「フウ、あなたもやめなさい」
一触即発の、私と虎女に待ったを掛けたのは、リバティと、三人組の1人だった。
かなりの小柄で、ゆったりとしたフード付きのローブで顔を隠しているが、その声から少年だと分かる。
って言うか、声が幼くない? 小柄って言うか子供?
何で子供がダンジョンの最下層にいるんだ?
「はいはい、ちょっと揶揄っただけだよ・・・命拾いしたな、小犬ちゃん」
そう言って、虎女は後ろに下がる。
ホント、ムカつく女だな。
「すみません、僕の連れが失礼を致しました」
「君がこのダメ猫の飼い主? ペットの躾けは、ちゃんとした方が良いわよ」
「何だと、てめえっ!」
「フウ、下がって居なさい」
フードの子供が、手で虎女を制す。
「失礼、彼女は、僕の護衛でしてね」
「ふ~ん、まっいいわ、まさか、私たち以外にダンジョンに潜ってるパーティーが居るとは思ってなかったわ」
「僕もこんなダンジョンに潜るパーティーが居るとは、思っていませんでしたよ」
「ところで、何で君みたいな子供が、何でこんなダンジョンにいるのかしら?」
私が疑問に思った事を言った瞬間、後ろに控えていた女剣士の大剣が、私の喉元に突き付けられた。
褐色の肌に、紫色のロングヘアー、手には、大剣であるグレートソードがナイフに見える程の、超ド級の大剣が握られている。
その刀身は、真新しい血で濡れている。
悪魔の首を斬り落としたのは、この女で間違いない。
しかし、よくこんな馬鹿デカい剣をダンジョンに持ち込めたわね。
「言葉を慎みなさい、この御方をどなたと・・・」
「ノイン、剣を下げてください、僕は彼女と話がしたいので」
「はっ、申し訳ございません」
フードの子供の言葉に、女剣士が素直に大剣を戻す。
「申し遅れました、僕の名はクリス、この者たちは、僕の護衛でしてね、こちらがノイン、こっちの彼女がフウです」
フードの子供クリスが、女剣士ノインと、女獣人フウを紹介する。
「私は、シャオ、こっちはリバティ」
「シャオさんですか、良い名前ですね! 尻尾触って良いですか?」
リバティを無視して、喰い気味にクリスは私に近づく。
って言うか、初対面で尻尾触らせてって何だよ。
「褒めても何も出ないわよ、あと尻尾は触っちゃダメ」
うわ、フードで顔は見えないけど、めっちゃ残念がってるのが分かるわ。
「クリス様、獣人の女の子と見れば、直ぐに手を出すのは、おやめ下さい」
「まぁまぁ、ノイン、せっかく可愛い獣人の女の子と知り合えたんですから、良いじゃないですか」
「またその様な事を、その様な態度ですから、野良猫が勘違いしたのです」
「猫じゃねえ、虎だっていつも言ってんだろ、ノイン!」
「ふん、貴様など、クリス様のペットでなければ、殺処分しているわ」
えっ? なにこの子、獣人好きなの? ケモナーってヤツ?
それにしても、この虎女、やっぱりペット扱いかよ。
かっこつけてた癖に、ペット扱い、プークスクス。
「なに笑ってんだテメー!」
「フウ、貴様のせいでクリス様が笑われたではないか」
「お前のせいだろうがーーー!!」
その後、クリスが二人のじゃれ合いを止めて、数分間の説教後、ようやく本題に入る。




